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【小説】最近読んだ小説感想レビュー--『いけない』『紅蓮館の殺人』『時空旅行者の砂時計』

最近観読んだ小説3作のレビューです。直接的に文中で結末には触れていませんが、ネタバレにはご注意ください。

 

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道尾秀介『いけない』
出版:文藝春秋/発売日:2019年7月10日

58点
とにかく読者を驚かせ、後味の悪い気持ちにさせることだけを念頭に置いたミステリ連作。小さな町の中で事件が起きては、消化不良なところで話が終わり、各章の最後に示されたイラストや写真によって真実を伝えてくる。徹底したどんでん返しの連続によって読者の感情を揺さぶろうとしてくるが、仕掛けの構築が最優先されているがゆえ物語自体には無理が生じているため、通俗的な抒情性を狙うには無理がある。あくまで本格ミステリとしては、ベタも含めて悪くないのだけれど。

いけない

いけない

  • 作者:道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/07/10
  • メディア: 単行本
 


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阿津川辰海『紅蓮館の殺人』
出版:講談社(講談社タイガ)/発売日:2019年9月20日

62点
大がかりな仕掛けがそこかしこにある山中の館で奇怪な状況の死体が発見されるが、山火事に囲まれているのでそれどころではない。という設定により、閉ざされた山荘モノをベースにしながら「それでも、探偵は謎を解くべきなのか」とジャンル言及的な問題意識にまで及んでいく。2人の探偵それぞれに憧れとプラスアルファの感情を抱くワトソン役の内面描写が、その問題意識を更に保管していく。ワクワクする大仕掛けの物理トリックと、酷すぎる形状となった死体のギャップもまた、本格ミステリの抱える問題に焦点を合わせようとしてくる。

紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)

紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)

  • 作者:阿津川辰海
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/09/19
  • メディア: Kindle版
 


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方丈貴恵『時空旅行者の砂時計』
出版:東京創元社/発売日:2019年10月11日

57点
第29回鮎川哲也賞受賞作。2018年から1960年にタイムスリップした主人公が閉ざされた館での連続殺人事件を解き、歴史を改変して愛する者を救おうとする。SF要素はツカミのためかと思いきや、後半になって急に物語の比重を占めてくる。そのダイナミックな舵の切り方には興奮するべきなのだろうが、まずは文章の技術的な拙さが気になってしまい、ノリを受け入れるのが難しい。たとえば、地の文で主人公を苗字の「加茂」と「彼」の2通りで統一なく表記されると、非常に読みにくいのだが。

時空旅行者の砂時計

時空旅行者の砂時計

  • 作者:方丈 貴恵
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/10/11
  • メディア: Kindle版
 


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