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【洋画】2020年1月に観た外国映画の雑感

2020年1月に鑑賞した外国映画の雑感です。軽く結末に触れているところもあるので、ネタバレにはご注意ください。

 

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1月公開の洋画を見渡すと、ミステリに分類されている作品が目立つ。だが、これらの作品は、本当の意味でミステリだったのか。映画を観ながら、ジャンルそのものについて考えさせられることが多々あった。なお今回の文中において、ミステリとはアガサ・クリスティやエラリー・クイーンのような狭義の本格ミステリのことを差し、サスペンスなどとは別個のものとしています。

『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(ライアン・ジョンソン監督)は、いかにもミステリらしい出で立ちをしている。奇妙な館で大金持ちの老人が不審な死を遂げ、一癖ある家族たちが容疑者として並べられ、風変わりな私立探偵が登場する。だが実のところ、ミステリのモチーフを装飾として拝借しているだけで、物語自体はアナ・デ・アルマス演じる看護師を主人公としたクライムサスペンスである。ダニエル・クレイグ演じる探偵でさえも、ミステリっぽさを彩るための小道具でしかない。

『ナイブズ・アウト』はジャンルを意図的に偽る所作自体が狙いなので構わないのだが、問題は『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(レジス・ロワンサル監督)である。犯人と犯行方法を隠された謎としており、いかにもジャンルはミステリだと主張する。だが、ミステリとしては非常に大きな欠陥があって、これだと誰が犯人でも話が成立してしまうのである。ミステリでは「誰が犯人か」と同様に「他の容疑者がいずれも犯人ではない」ことも証明するのが重要だが、それが成されていない。出版前の小説原稿がネット上に流出するのだが、閉じ込められた容疑者たちとは別に原稿の内容を知る人物が存在すると最初から観客に明かされている。それではその人物が犯人と接触したと仮定すれば、まず流出の謎は解決する。他にもメール投稿などいくつか方法に関する謎は出されるが、いずれもミステリ的には弱い。観客に何を見せて何を隠すかを整理して、これはミステリではないと早々に主張しておけば、物語自体の面白さまで霞むことは無かったかもしれない。

『マザーレス・ブルックリン』(エドワード・ノートン監督)は、私立探偵が恩人を殺した犯人を探す話で、一応は集めたヒントから真相を割り出すミステリの要素はあるが、1950年代のニューヨークを舞台にしたハードボイルドというのがジャンルとしては正確か。アレック・ボールドウィン演じる権力者は明らかにロバート・モーゼスがモデル(役名も同じモーゼス)で、反対運動を行う女性活動家のジェイン・ジェイコブズ(見た目までそっくり)との都市開発の攻防を下敷きとしている。当時のニューヨークの空気感に説得力があってなかなか興味深かったが、あとで原作は舞台が1999年と知って驚いた。

『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)は、別にミステリではないのだが、なぜか監督自ら「ネタバレ禁止!」と事あるごとに主張してくるので、ジャンルを勘違いされがちである。正直、どの部分を差して「ネタバレ禁止!」と言っているのか解らないのだが。作品はアレゴリーに満ちた御伽噺の類で、韓国の抱える社会問題を解りやすく可視化することに主眼が置かれている。金持ち家族が最後まで得体のしれない存在のままだったのは、最下層家族の視点による物語だからであり、決して互いは理解できないとの監督からのメッセージなのだろう。御伽噺なのでリアリティが薄いのは別にいいのだが、他と繋がっておらず本来なら編集でカットすべきシーンがいくつか残っていたように感じたのは気のせいか。

ここからは、まったくミステリの要素の無い作品をふたつ。『キャッツ』(トム・フーパー監督)は、公開前からのアメリカでの酷評もあってネット上では大喜利の題材と使われてしまったが、これを普通の映画だと主張する力量は自分には持ち合わせておらず、奇怪なカルト映画であることに異論はない。ビジュアルを猫に寄せた何者かが歌って踊るのが延々と続くが、ラスト間際でそのうちの一人(一匹?)がカメラ目線で語りかけてくる。てっきり『犬と私の10の約束』の猫バージョンかと思いきや、どうやら猫に向かって喋っているのだ。この映画が想定している観客は猫なのか。あまりの衝撃に唖然としてしまった。

『ジョジョ・ラビット』(タイカ・ワイティティ監督)は、第二次世界大戦中のドイツを舞台に、ヒトラーをイマジナリーフレンドとする10歳の少年と、自宅に匿われているユダヤ人少女との交流を描く。戦時下のナチスドイツを一旦エンタテイメントに変換したうえで問題を浮き彫りにする作業は過去作で何度も行われているが、本作では少年の目線を通すことでファンタジックな装いに改められている。あくまで少年の成長譚のための背景としてナチスが用いられ、周囲の人物たちを含めて基本的には暖かく楽しい世界が広がっている分、直接的に描かれない現実が背後から襲ってくる。個人的には、今回取り上げた映画の中ではベスト。

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