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【邦画/アニメ】『ぼくらの7日間戦争』感想レビュー--なぜ、実写でできることをわざわざアニメにしているのか

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監督:村野佑太/脚本:大河内一楼/原作:宗田理
配給:ギャガ=KADOKAWA/上映時間:88分/公開:2019年12月13日
出演:北村匠海、芳根京子、宮沢りえ、潘めぐみ、鈴木達央、大塚剛央、道井悠、小市眞琴、櫻井孝宏、宮本充、関智一、中尾隆聖

 

注意:文中でストーリー及び結末に触れていますので、ネタバレにご注意ください。

 

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51点
映画館で鑑賞中、「これ、実写で観たかったなあ」と、ずっと思っていた。どれもこれもアニメでしかできない動きではなく、むしろ生身の人間が演じたほうが見ごたえがありそうなシーンばかりなのである。特に高校生たちが大人に立ち向かう、この映画の肝であるアクション部分は、知的アイデアは豊富なものの人間の動きは変にリアリズム重視で、アニメ特有の快楽は得られない。

随所にオマージュらしく前作と同じ構図が見られるが、30年以上前の演技経験も少ない子供たちが演じるシーンと同じことを、今のアニメ技術でしておいて、迫力で負けているってどういうことなのか。せめてアニメでアクションをやるなら、実写ではできないことをしてほしい。もしくはアクション以外の部分に、アニメならではの魅力を入れるでもいいが。

いや本当、実写でもできることばかりなのだ。ロケハンさえ気合を入れて最適な場所を探し出せれば、あとはセットと一部CGで、充分に同じ話を作れる。制作費も大して変わらない気もするし。『ぼくらの七日間戦争』の続きをするとして、なぜアニメなのか。アニメファンならどんな作品でも映画館に来てくれるとか、そういう皮算用か。

舞台は北海道。高校生の守は、隣に住む地元有力代議士の娘である綾とは幼馴染で、ほのかに恋心を抱いている。そんな綾だが、夏休みの初日に東京に引っ越すことになった。綾の父親は地位の高い叔父から、指定された日に引っ越してくれば面倒を見てやると言われていたためだ。せめて1週間後の誕生日は地元にいたいという綾に対して、守は「逃げましょう!」と言ってしまう。こうして、夏休み最初の7日間、石炭工場の跡地でこっそり過ごす計画を立てる。

劇中で示される2人の行動原理ってこれだけなんだけど、よく解らなくない? 引っ越し時期をずらすのは無理としても、綾だけ1週間残るとか、誕生日だけ地元に戻るとか、それすら許されないってことなの? セリフで一言でもいいから、親に黙って姿を消さなくてはいけない事情を説明してくれないと、この人たちは何してんだろとしか思えないのだが。

まあ、高校生たちのほうは思春期特有の「なんかすげえことをしたい」という理屈でいいかもしれない。でもこの父親、叔父との約束の日をすっぽかしてまで、綾の捕獲に躍起になっているのだ。自分が東京に行くよりも、綾を東京に連れていくほうを優先している。これだと、綾を連れてくるのも叔父との条件に含まれていたとしか思えないのだが。それ、かなりヤバい案件のような気が。

立て籠もる他の高校生は、守と綾の計画に乗っかっているだけで、本人たちに学校やら社会やらへの不満があるわけではない。これは、前作では子供たちが当然の如く巨大な敵(学校)を共有していたのと対比させて、「現代の若者には反抗する相手がいない」的な社会批評性を持たせたのかもしれない。でも、肝心の大人の側がさあ。綾の父親が時代遅れなほど旧主的な価値観の持ち主で、実質的に高校生たちの敵は彼ひとりなんだけど、それだと前作と構図は変わらないわけで。

一方で高校生たちと直接やりあう、綾の父親以外の大人は、仕事もしくは命令された仕方なくって感じだし。高校生たちが敵とみなして抵抗する大人の側に事情がはっきりとあるため、立て籠もりアクションの爽快さを打ち消してしまっている。ここは難しいところだけど、前作のようにボコボコに打ちのめす相手が完全悪(理不尽に威圧的な教師たち)じゃないと、エンタメとしては盛り上がりづらい。

まあ、そんな批評性以前に、物語が隙だらけで詰められていないもんで。動画をネットに上げたらバズって、次の日の朝には野次馬で囲まれるとか。個人情報を流された途端に速攻で何でもかんでも暴かれるとか。この話、2日目以降はネットを通じて日本中が立て籠もりの話題で持ち切りみたいな感じなんだけど。せめてアニメの人たちはネット描写に正確でいてほしいんだけどなあ。あと、その個人情報を流したのが、高校生たちに感化されつつある若き秘書ってのも、心理状況がブレブレだし。別に、それするの彼じゃなくて良くない?

物語のリアリティにそれほどこだわらなくていいのは、アニメだから許される特権ではある。さらに言えば、前作の話の強引さを受け継いでいるとも言えるかもしれない。でもそれって、別の何かプラスの要素があって、初めて成立することでしょう。物語の不備は「アニメだから」と言い訳しておいて、かといってアニメならではの魅力は皆無。いくらなんでも卑怯ではないか。

で、彼らが立て籠もる唯一の原因である綾以外は個人情報をネットに晒され、かつてイジメられてたとか裏アカを暴露されたとかで、一時的に高校生たちの仲が悪くなる。まあ、すぐ戻るんだけど。でもここで、誰もが思いつく「世界の全てを引っくり返せる一発逆転の方法」について、話にも出ないのが気になる。綾が自分からネットに出て、全てを白状すればいいのではないか。最終的に周りが止めるとしても、とりあえず自分から提案しろよ。全てはオマエのわがままから始まっているんだぞ。

アニメだから何だってできるのに、前作のオマージュをするなら必須の戦車も出てこず、前作での花火の代わりに気球で逃げ出し、なぜか誰もいないサービスエリアにいる高校生一同。警察も怠慢だけど、この世界における超優秀なネット民は何をしているのか。気球を追いかけるくらい朝飯前だろう。そして、ついさっき同性愛が当然のものとされる世界観を提示しておきながら、性差を用いたオチをつけて終了。別に差別的とかではないんだけど、そのチグハグさには気づかないのかな。

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