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【邦画】『桃源郷ラビリンス ~生々流転~』感想レビュー--2.5次元ファンへのアピールと岡山アピールの両方に手を出したことで、どっちつかずの結果に

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監督:ヨリコジュン/脚本:ヨリコジュン、 菅野臣太朗/原作:岡山ヒロミ
配給:トリプルアップ/上映時間:94分/公開:2019年10月25日
出演:鳥越裕貴、高橋健介、杉江大志、遊馬晃祐、山本一慶、長江崚行、健人、川上将大、今出舞、汐月しゅう、中村優一、仲田博喜、金子昇

 

注意:文中で結末に触れていますのでネタバレにご注意ください。また、ハードスケジュールの中での鑑賞だったため、物語を正確に思い出せているか自信が無いのですが、ご容赦願います。

 

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51点
元は岡山在住の著者によるライトノベルで、舞台や映画、ゲームアプリなどのメディアミックスを展開している作品らしい。今回の映画版は、すでに上演された2.5次元舞台と同じキャストによる映像化という、最近よくあるパターン。まったく詳しくないので出演者たちがどれほどの人気や知名度なのか判断できないのだが、おそらく熱狂的なファンをメインターゲットにしているのだろう。

映画の宣伝惹句は「誰も見たことのない≪桃太郎≫が今ここに!」なのだが、昔話のパロディ自体が手垢のつきまくっている手法だと理解したうえでのギャグなんだろうか。宣伝資料ではオール岡山ロケを盛んにアピールしていて、まあ、ご当地映画ってやつですね。そんなわけで、今回は東京からはるばる岡山まで参りまして、「岡山メルパ」という映画館で鑑賞してきました。

映画はまず、地球とか銀河とかのイメージ映像に被さったナレーションから始まる。主要キャストが入れ替わり立ち代わりで説明してくれるのだが、要は並行世界が無数に存在していて、たまに異世界から別の存在が転生してきたりするとのこと。そんな一言で済むようなSFの基本設定を長尺で説明されるので、これは体感時間が長くなる作品だなと冒頭で気づく。

続いてテーマ曲とともに登場人物全員の紹介があり(難しい名前ばかりなので全く覚えられないが、特に支障はない)、やっと本編が始まる。岡山市の商店街で古民家カフェを営む吉備桃太郎は、実は伝説の存在・桃太郎の転生者だった。なぜか惹かれるように集まってきた犬養津与志、楽々森類、珠臣樹里も、それぞれ、犬、猿、雉の転生者。出会いシーンの回想が順番に始まるが、ここは割愛。演者の動きが一時停止して、語り手だけがカメラ目線になって状況説明するやつ、いい加減ダサいと思うよ。

一方、なんだか知らないけど転生の扉を開くことができる時期になったとかで、かつて別の世界で桃太郎と戦った鬼の大将的なもの(難しい名前がついていたが忘れた)を呼び出せるとのこと。部下の酒吞童子と茨木童子(なぜこの人たちが現時点でこちらの世界にいるのかは不明)は、その儀式のために必要な吉備家の刀を手に入れようとする。ぼんやりとした説明で申し訳ないが、なんとなく解ってもらえれば、それでいいです。

さらに一方、倉敷のカフェ(大原美術館の隣にある実在のカフェ)の奥には、エイブラハム・D・ストーカー率いる悪の秘密結社みたいな組織の本部があった。彼らは、額に取り付けることで人間を意のままに操れる「人工角」の開発に成功していた。これを転生してきた鬼の大将に取り付けることで、日本を支配だか滅亡だか、とにかく何かができるらしい。ただし鬼の大将は超強いために現状の「人工角」では無理で、完成させるには浦島雨海(浦島太郎です、はい)の頭脳が必要なんだとか。

そんなわけで劇中では主人公たち含めて3つのグループが存在している。整理すればそこまでややこしいわけではないが、たとえば刀ひとつとってもやたら説明が長いので、なかなか理解が追い付いていかない。この長々としたセリフは、歌舞伎で見栄を切るのと同じような、2.5次元舞台の様式美なのだろう。だが『映画 刀剣乱舞』と比べると、徹底的に仰々しさが足りず、貧相なだけである。まあ、このジャンルの最高峰と比べるのも可哀想ではあるが。

ストーカー一味は「うらじゃ踊り」(岡山市の夏祭りで行われる踊り)練習中の市民を騙して「人工角」を取り付け、商店街の一角(本当に、一角のみ)で暴れさせる。それを知った桃太郎らは転生前の姿に変身して、角を切り落とすことで対応している。で、その混乱のさなか、酒吞童子が現れて「刀を持ってこい」とか言ってくる。誰か人質に取って、そのあとだっけか。よく覚えていない。

※ ちなみに桃太郎らが変身した姿は人には見えていないらしいが、しかし「人工角」で暴れている人は見えているわけで、どういう状況なのかよく解らない。というか、この見えなくなる設定、物語上ほとんど必要ない。

ここで混乱するんだけど、酒吞童子は「人工角」のことを何も知らないはずなんだけど、この状況を何とも思っていないんだよね。で、ライトアップされた夜の岡山城の前で、桃太郎一味と転生してきた鬼の大将(転生先は桃太郎の親友なのだが、面倒なのでその件はパス)らとのバトルになる。別にいいんだけど、ごみ箱とか案内板とかがはっきりと目視できる「整備された観光地」でのアクションって、なぜか白ける。

その混乱に乗じてストーカーの部下が鬼の大将と茨木童子を捕獲する。さらに、史上稀にみる超間抜けな展開によって浦島も連れ去られる(まさか2.5次元俳優がゲロ吐くとは)。アジトを発見して乗り込む桃太郎たちだったが一足遅く(ちなみに、その過程で酒吞童子と茨木童子は死にます)、浦島によって完成した超強力「人工角」を鬼の大将に取り付ける。万事休すと思いきや、浦島がこっそり「人工角」に細工していたので日本は救われましたとさー、ちゃんちゃん。

『映画 刀剣乱舞』の知識しかないけれど、2.5次元舞台を映画にするのなら、世界観をガチガチに作りこんだ虚構性の強い空間にしなくてはいけないのだと思う。奇抜な衣装にするだけでは到底足りなく、ごみ箱が映っているとかもってのほかだろう。だがそれだと、実際の岡山が舞台であることとの両立が非常に難しくなる。それならば2.5次元舞台のことは一旦忘れて、岡山アピールに徹したほうが良かったかもしれない。この映画の中で岡山アピールと言えるのはストーカー役の金子賢が山積みのトマトを褒めているところくらいだけだったが。これ、2.5次元舞台ファンへのアピールと岡山アピールの両方に中途半端に手を出したことで、どっちつかずな結果になっちゃっているんだよなあ。

ところで、公開週の土曜日の「岡山メルパ」は、お客さんがボク以外には3人だけでした。おそらく岡山の自治体や企業はこの作品に有形無形の支援をしていると予想されますが、それでこの不入りでは、ほとんど地域に見返りは無いかと。

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これが原作らしい

桃源郷ラビリンス (小学館文庫キャラブン!)

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