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【邦画】『3人の信長』感想レビュー--あまり日の目の当たらない今川氏が引き立っているだけで充分

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監督&脚本:渡辺啓
配給:HIGH BROW CINEMA/上映時間:106分/公開:2019年9月20日
出演:TAKAHIRO、市原隼人、岡田義徳、相島一之、前田公輝、奥野瑛太、坂東希、高嶋政宏

 

注意:文中の2段落目で決定的なネタバレをしています。結末を知ってから観ても問題ない作品だとは思いますが、一応は自己責任でお願いします。

 

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56点
まったく知らなかったのだが、監督は元・グレートチキンパワーズの人であった。どうやら現在はLDHお抱えの脚本家として活動しているそうな。お笑いコンビとしてのグレチキは笑芸史においては『オンエアバトル』でボール0個の最低記録を樹立したことくらいしか足跡を残せていないし、てっきり(真意不明な噂を含めて)不遇な扱いのまま消息が途絶えていたと思っていたので、こうして活躍しているのを知って少し嬉しかった。かつての相方は逮捕されていたけど。

時代は桶狭間の戦いから10年後。敗戦した今川義元軍の残党が織田信長を捉えるが、なぜか3人も捕まえてしまった。信長の顔を知らないため誰が本物で誰が影武者なのか解らず、あの手この手で本物が誰なのか白状させようとする。予告の段階で大方の予想がつくことなので先に言っちゃうけど、もちろん3人とも信長ではないです。で、この手の話の常套として、本物の信長は序盤から今川軍の前に姿を見せているのわけで、そうなると3人以外の登場人物で今川軍と無関係なのは・・・、はい、もう結論は解りましたね。

いきなりネタバレしてしまって申し訳ないが、この話自体は創作だとしても、そもそもここで信長が殺されるわけがないことは史実からして解り切っていることである。本能寺の変より手前で信長を死なせる脚本を平気で書けるのはタランティーノばりの奇才でないと無理だ。また、視点も固定されておらず、観客が今川軍と一緒になって誰が信長か推理するような創りにはなっていない。ネタバレは前提の上で楽しむタイプの作品であろう。

そう考えると、意外と最低限の配慮はしている。まず誰もが思う「3人とも殺せばいいじゃん」というツッコミは、主君である今川義元の墓前に別人の首を置いてはいけないという強引な理由によって否定される。語りによる回想シーンは、あえてのチープさを出すことで作り話かもしれないことを匂わせていて、演出によってそれなりにフェアにしている。一応、何度かの小さなどんでん返しがあるので「もしかして、本当に3人の中に信長がいるのか?」と瞬間的に思ってしまうような仕掛けはほどこされており、退屈さを回避している。本作の場合、3人の中に信長がいたほうがサプライズだし。

あまり戦国モノに詳しくないのだが、今川氏がここまでクローズアップされるのは珍しいのではないか。本来なら桶狭間の戦いをきっかけとして滅亡するわけで、歴史的にそこまで重要な存在ではないし。好きな戦国武将は今川義元って人に会ったこともないし。地味な日陰者に脚光が浴びたことについては、戦国時代が好きな人にとっては興奮するかもしれない。演者も高嶋政宏や相島一之といった癖のある配役が揃っていて、ハッキリ言って主演のはずの信長の影武者3人よりも引き立っていた。まあ、ちょっと頭が悪すぎる描き方にはされているけど。

3人が互いに初対面だということは、序盤で今川軍も気づいているのだが、そこからただ一つの結論が導けないのはなぜなのか。あとこの3人、監禁している牢屋でけっこう重要な会話をしているけど、見張りを立たせるか盗み聞きすればいいのに。そういう詰めが甘いところから、今川軍の頭が悪く見えてしまう。ネコアレルギーとか左利きとか、なんとか論理的な話にしようとしている努力は解るのだけれど。あと、3人の中で互いに疑心暗鬼になっていくくだりがあるが、この対立構造を掘り下げていったら、物語に深みが出たかもしれない。実際に脚本を書くとなると、かなり難しそうだが。

まあでも、登場人物の関係性の変化が常にあることで緩急がついて間延びしていないので、緻密な推理劇とは別物であることを念頭に置いておけば、軽妙なファンタジー時代劇としては充分に楽しめるとは思う。ずっと牢屋に入れられているのにTAKAHIROの髪の毛がセットされているところとかが、気にならなければ。

 

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