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【邦画/アニメ】『天気の子』ネタバレ感想レビュー--アニメにおける都市の記録とはどういうものか考えようと思ったが、まだ考えていない

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監督&脚本:新海誠/キャラクターデザイン:田中将賀/作画監督:田村篤/アニメーション制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給:東宝/上映時間:114分/公開:2019年7月19日
出演:醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、吉柳咲良、平泉成、梶裕貴、倍賞千恵子、小栗旬

 

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64点
どうしよう。何も書くことがない。いや、新海誠監督の性癖についての推察とかならできるけど、「うん、やっぱり」の一言でも済むし。もはや狂気の沙汰と言ってもいい作画のクオリティもほうぼうで語り尽くされていることだし。あとはストーリーかあ。うん、それなりに大胆なことをしているし、面白かったのは確かだ。総合的には充分に満足だし、もう一回観てもいいくらいなんだけど、熱をもって何かを語りたい衝動にならないのはなぜなのか。

簡単に言えば、定型の物語への意図的なアンチである。東宝の夏の大作映画だとしたら、たしかに斬新だ。世界が壊れようとも、たったひとりの個人を優先する選択は、ある種の思想的な挑戦ではあろう。でも別にこのパターン、エンタメ大作の外を見渡せば、いくらでもあるんだけどね。パッと思い出したところだと『キャビン』とか。なんで最初にそれを思い出したのかは自分でも解らん。もっとまともな例はあるだろうに。

「今年最大級の話題作に触れない俺、かっこいい」みたいな中二病を拗らせているわけでもない。たしかに当ブログは他では半ば無視されているような小規模邦画を取り上げることが多いが、だからといって話題作を拒んでいるわけではない。週末に3~4本観て、「なんかいろいろ言いたい」って思った映画を選んでいるだけだ。で、『天気の子』は、そこに引っかからなかった。

それでもちょっと食いついたのが街の描写で、"現在の東京"が記録されている。実在の企業や商品のロゴも多く出てくるので、ここは『劇場版 シティハンター』と同じくこだわりが伝わってくる。現在建設中の新国立競技場と先日閉館したシネマサンシャイン池袋の看板がどちらも登場するのは、この2つが同時に東京に存在していたほんの短い瞬間を本作が切り取っているからだ。東京の都市を表すアイコンとして登場したバニラトラックや、風景の一部として確固たる地位を築いた「いらすとや」に、刹那的な"現在の東京"が記録されているあたりは、多少の興奮は確かに感じた。

ただなあ、都市の記録という観点で賞賛しようにも、これがアニメであることがネックになる。絵なんだから、いつの時代の風景だって再現しようと思えばできちゃうわけで、実写のカメラに記録されるほどの特別感は得られない。名画座で観る古い日本映画に当時の東京の様子が映し出された時と同じような興奮が、何十年後かに『天気の子』を観ても感じるだろうか。なんか別種のものになりやしないか。

細田守監督『バケモノの子』では各年代ごとの渋谷スクランブル交差点を描き分けていたが、このように実写では不可能に近いことをするほうがアニメによる都市の記録として力強いと思える。あと新国立競技場で言えば、現在の隈研吾案ではなくザハ案は少し前のアニメ映画に何度か登場している。当時は「直近の未来としての東京」だったはずが、現在では「ありえたかもしれない架空の東京」に変化していて、むしろアニメならではの東京の記録としての意味は増している。『天気の子』については、なぜかそういう力が感じられない。

アニメによる都市の記録については、いつか改めてちゃんと考えることにします。ところで劇中、大雨によって交通網が完全麻痺した池袋で宿を探すが、どこも未成年だからと拒否されて夜の街をさまよい続けるシーンがある。こういう非常時ってすぐに宿は満室になるし、緊急の避難所が用意されるだろう。風景としては実際の東京を事細かく再現しているにも関わらず、脚本上では東京らしいリアリティは詰められていない。この描写のおかしさを指摘できるブレーンが、今の新海誠に必要なんじゃないかなって少し思った。

 

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