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【邦画】『jam』ネタバレ感想レビュー--EXILEとSABU監督の意外な相性の良さ

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監督&脚本:SABU
配給:LDH PICTURES/公開:2018年12月1日/上映時間:102分
出演:青柳翔、町田啓太、鈴木伸之、秋山真太郎、八木将康、小澤雄太、小野塚勇人、佐藤寛太、野替愁平、清水くるみ、筒井真理子

 

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67点
こんなことを言ったら非国民だと罵られることを覚悟の上だが、『ハイ・ロー』シリーズを始めとするEXILE映画を、今までひとつも観たことがなかった。ああ、白状してしまった。このことが知られてしまった以上、中目黒のドン・キホーテにでも足を踏み入れた日には、きっとタコ殴りにされるであろう。(EXILEファンに対する雑な認識)

さて、そんな邦画好きの風上にも置けないボクが、なぜ本作『jam』を観に行ったかというと、ひとえにSABU監督だからである。デビュー当初の危ない疾走感は鳴りを潜め、かといってメジャー作品に起用されながらも結果を出せずに迷走しているSABU監督の終焉を見届けるために、映画館に足を運ばなくてはいけないのだ。先に言うと、終焉どころか復活の兆しを感じられた素晴らしい作品だったのだが。

映画冒頭、大通りを走る車の間を縫うように、黒い高級そうな車(知識が無いので、車種とか解らない)が爆走している。血まみれで気を失っている女性が後部座席にいて、運転している若い男が病院まで急いで飛ばしているということらしい。とにかく驚いたのだが、このカーアクションを、日中の公道(それなりの大通り)で撮影しているのである。のちにロケ地が北九州市だと解るのだが、いくら地方とはいえ、今の日本では、なかなかできないはずだよ。追い越される側の車と運転手の手配も含めて、EXILEの力、マジすげー。

と、急に後部座席の女が起き上がり、運転席の男の首に抱きつきながら「ヒロシ…」と呻く。男は「僕はヒロシじゃありません」と叫びつつ、パニックになってアクセルを踏み込んでしまう。高速で狭い道に突っ込み、目の前に真っ赤なステージ衣装のようなものを着た男が飛び出してきた瞬間、すんでのところで急ブレーキを踏む。その衝撃で女はフロントガラスを突き破り、派手な格好の男の上に覆いかぶさる。

と、ここでシーンが変わる。が、何かを擦っている雑音みたいな気味悪いBGMは継続しているので、説明が少ないがために発生している冒頭からの不穏さはそのまま続いている。先ほどの派手な服の男は横山田ヒロシ(青柳翔)という演歌歌手であり、ライブハウスみたいな場所で、おばさん相手にシークレットショーを行っている。ショーのあとは啓発セミナーのようなことをしている。演歌、ライブハウス、啓発セミナーと、このチグハグさがやっぱりかすかに不穏だ。

すこし端折るが、ヒロシは熱狂的なファンのおばさん・昌子(筒井真理子)に一服盛られて気を失わされ、気がつくと彼女の自宅に監禁されている。ヒロシが倒れたときに冒頭の車の男・タケル(町田啓太)が通りかかって手助けしたり、倒れる直前には老婆の乗る車椅子を押している謎の男とすれ違っている。

と、またここで場面は変わる。先ほどの車椅子を押していた男・テツオ(鈴木伸之)が刑務所から出てくる場面になる。このように、視点となる人物が時制とともに何度も飛ぶことで、少しづつ物語の輪郭が見えてくるという構成である。偶然の出会いが多すぎるという瑕疵はあるものの、冒頭から保たれている不穏さと、徐々に露になる高揚感によって、あまり気にはならない。

映画の推進力を支えているのは、テツオである。EXILE渾身の生身アクションは、本作に関しては、ほぼ彼に委ねられている。強盗事件でひとり罪を被って服役していたテツオが、出所後に裏切った仲間に対して復讐をして回っている。金づちひとつでヤクザ集団と張り合う喧嘩シーンが何度かあるが、ここまでエンタメ純度の高い生身アクションは、日本映画では非常に珍しい。ミニシアター系の邦画にはレベルの高い喧嘩シーンはあっても、大体が純文学的なメッセージ性の発露に使われいる場合が多いので(もちろんそれも大事であるが)。

この喧嘩シーンで特に巧いのが、やられそうな体制からのテツオの逆転劇のところである。物語上は、やられる展開でもおかしくないわけだし、テツオが地面に倒れた時点で観客も諦めかけたところを、相手の足の甲を金づちの尖ったほうでぶっ刺してから態勢を立ち直してくるあたり、純粋にアがる。さらに、傍らに車椅子の老婆がいるという不穏さが、不思議とアクションの盛り上げに拍車をかけている。

しかも、このテツオのパートは、実は本筋から逸れたサブのエピソードなんである。それまでの話が一つに収束していくクライマックスでは、テツオは完全に蚊帳の外だ。車椅子の老婆に関しては、ほとんど説明もされずに終わるし。一応の本筋は監禁されているヒロシなのだが、ここでの昌子とのやりとりはサイコスリラーに見せかけたギャグパートになっている。正直、ここの面白さは伝わらなかったのだが、どうも本作は楽屋オチが散りばめられているらしいので、EXILEファンなら解るのかもしれない。

ともあれ、複数の並行していた話が収束していき、主要な登場人物(テツオを除く)が一堂に会した市民ホールで強盗発砲事件が起こり、冒頭のカーアクションへと繋がる展開は、普通に脚本が巧い。もちろん、たとえばクドカンなんかと比べれば強引さが目立つだろうが。たとえば昌子はヒロシを庇って銃弾を受けたようになっているが、あれは位置関係でたまたまそうなっただけみたいだったし。そのあとにヒロシが走り出すのも、改めて考えると意味がよく解らない。ただこれらの強引さは、かつてのSABU監督作品に通じるものがあると、良い意味で感じる。

とにかくみんなして走り出すし、処理ができなくなった人物を唐突な交通事故で殺しちゃう強引さも、SABU監督らしさを補強するのに一役買っている。このような一連の疾走感が、かつてのSABU監督作品にあった高揚さを再現している。エンドロール後の映像は謎だったが(あれもEXILEファンなら解る楽屋オチなんだろうか?)、そもそも冒頭からずっと不穏だし、結局のところ何も話は解決していないわけだし、ああいう意味不明な感じで終わるのは、本作には合っている。

かつてのSABU監督を蘇らせることができるのはEXILEだと、本作で判明した。このようなことを続けていけば、今の日本映画界を救うのはEXILEではないかと、本気で思った次第である。

 

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