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【邦画】『人魚の眠る家』ネタバレ感想レビュー--堤幸彦監督はジャンル・ムービー向きの資質ではないだろうか

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監督:堤幸彦/脚本:篠崎絵里子/原作:東野圭吾
配給:松竹/公開:2018年11月16日/上映時間:120分
出演:篠原涼子、西島秀俊、坂口健太郎、川栄李奈、山口紗弥加、田中哲司、稲垣来泉、斎藤汰鷹、田中泯、松坂慶子

 

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59点
これ、前半はかなり良かったのである。依頼主の希望にさえ沿えれば作品の質にすらこだわらない、良い意味でも悪い意味でも(いや、ほぼ悪い意味だが)プロフェッショナルな職人監督こと堤幸彦の作品なので相当に身構えていたのだが、何も考えていないからこその強みがあった。

人魚の眠る家 (幻冬舎文庫)

人魚の眠る家 (幻冬舎文庫)

 

 

東野圭吾お得意の、最先端科学によって常識が変わりつつある中での従来の倫理観を改めて問い直す話である。脳死状態に陥った我が娘に電気信号を送って手足を動かすことで、生きているんだと主張する母親には、たとえ子供がいない人であってもある程度の共感は得てしまうだろう。母が子供を思う真っ直ぐな気持ちに異を唱えるのは、社会通念上からも躊躇するところである。だが一歩引いたところから見ると、その母親は狂気じみた化け物のような存在でもある。

とにかく前半はずっと、ホラー演出なのである。日常的な自宅空間には不釣り合いな大掛かりな機械。眠ったままの女の子に流される電気信号の無機質な重低音。その電気によって強制的に手足を動かされ、口元を上げて笑顔にさせられる脳死状態の女の子。それを見て微笑む、やつれた母親。第三者的には、いずれも恐怖を感じる要素が並ぶ。さらには、薄暗く青が強い画面、長回しで不安定に動き続けるカメラなど、照明や撮影までもが、これでもかというくらいホラー演出を行っている。

おそらく、堤幸彦監督は、たいして何も考えていない。とりあえずホラーっぽくということで、ベタな演出方法を採用しているに過ぎない。だがホラーというジャンルは、過去作を踏襲したベタを取り入れるのは正当な作法である。堤幸彦監督は元々がコメディの人でもあるし、こういう作法が決まっているジャンル・ムービーは得意なのかもしれない。

ともあれ、娘に愛情を注ぐ母親への共感と、動かない娘に執着する狂人に対する恐怖、その2つを同時に受け取ってしまうため、観客は倫理的な両義性にグラグラと揺さぶられる(また、母親役の篠原涼子が徐々に狂気を小出しにしていくのが名演なんだ)。その揺さぶりが、西島秀俊演じる父親の視点を通すことで増幅されているという構図も(おそらく原作の功績によって)巧くできている。ラスト近くまで、訴えかけるホラーとして素晴らしかったのだ。

で、恐怖演出を散々盛り上げまくった先に、母親が包丁を取り出し、ホラーとしての絶頂を迎える場面となる。ここでなぜか急に、感動演出に切り替わってしまうのである。非常に残念だ。東野圭吾にしては弱すぎる「事件の真相」。泣き叫ぶ子役(たぶん、泣き顔だけで採用したと思われる)。生死の判断は国家に委ねるという理屈から呼ばれている警察官(いや、交番勤務の巡査に判断されても…)。そしてさっきまでのホラー演出が鳴りを潜め、なんだか感動で盛り上げようとしている。いや、いくらなんでも無理でしょ、これで感動しろというのは。

ラストに医者が提示する、人の生死の基準はこれだという陳腐な結論(それ、誰もが最初に思うことで、普通そこからスタートするんじゃないのか)のつまらなさには唖然とした。あと、川栄李奈のサイドストーリーが本筋に比べて弱すぎて対になっていないとか色々あるが、どれもこれも堤幸彦監督が考えることなく単純に要素を並べているからなんだろうなあ。まあ、次は純粋なホラーを撮ってほしいです。

 

 

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