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【邦画】『ごっこ』ネタバレ感想レビュー--ぶっ飛んだ原作漫画から設定だけ頂戴して、登場人物を社会性のある善人にしてしまっては、すべて台無しではないか

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監督:熊澤尚人/脚本:熊澤尚人、高橋泉/原作:小路啓之
配給:パル企画/公開:2018年10月20日/上映時間:114分
出演:千原ジュニア、優香、平尾菜々花、ちすん、清水富美加、秋野太作、中野英雄、石橋蓮司

 

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51点
まったく知らなかったのだが、撮影されたのは2016年だが公開の目途が立たず、一時はお蔵入りになりかけた作品だそうだ。その理由は公になっておらず、清水富美加が出演しているからではないかという推測がなされている。だが、彼女の他の出演作はどれも予定通り公開されていることから、直接の原因ではないように思う(配給が二の足を踏んだとかの遠因は可能性あるにせよ)。TV的に知名度のあるキャストが揃っているため、お蔵入りの危機が話題になったというだけかもしれない。撮影したはいいが公開まで辿り着けない映画って、実はたくさんあるし。

異常な数の邦画が新作公開されている現状では、お蔵入りする勇気を持てと言いたくなる気持ちもあるが、最後まで創ってしまったからには一度は観客の目に触れる機会を与えるべきだとも思う。本作『ごっこ』が不運だったのは、時期が遅れたために『万引き家族』の少し後に公開されたことではないか。虐待の疑いがある幼女を冴えない男が攫ってきて実の娘のように育てる話ならば、嫌でもあの傑作と比べられてしまう。制作してすぐの2年前に公開していれば、そんなことにはならなかったのに。

ごっこ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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ニートの40男・城宮(千原ジュニア)は、自宅アパートに引き籠ってフィギュアを作る毎日を送っている。って、けっこうな才能だな。『3D彼女』もそうなのだが、アニヲタなら誰しもがフィギュアを自作できると世間では思われているのだろうか。ある夜、向かいのベランダにいた傷だらけの幼女(平尾菜々花)と目が合う。虐待されているのかと思い、ついつい幼女を自宅に連れ込んでしまう城宮。ひとりでは育てられないので、老いた父親だけが暮らす実家(寂れた商店街の帽子屋)に戻り、自分の娘だと偽る。不肖の息子が戻ってきた父親は、こっそり自殺して息子に年金を不正受給させるよう手はずを整える。

※ なお、公式の紹介文などで城宮をロリコンと書いているものがあるが、劇中で城宮が幼女に対して性的興奮を覚えるような描写は一切ない。着替えも手伝うし、一緒にお風呂にも入る(セリフのみ)が、あくまで娘として接している。ロリコンという表記は、原作の設定をそのまま持ってきているだけであろう。

こうしてあらすじを書き起こしてみると、けっこう突拍子もない話なんである。だが実際は「これが社会の底辺の闇だ」とでも言いたげに、重く暗い雰囲気によって大真面目な演出で見せてくる。こういうのは、細部を詰めることでリアリティを出さなくてはいけないのだが、そちらへの気配りは一切ない。どうやったら、攫ってきた子供を保育園に入れることができるのか。住民票とか必要なんじゃないのか。

婦人警官になった幼馴染の戸神マチ(優香)が悪態をつきながらも母親面してきたりと、偽りの家族関係を構築していくというのが、この話の本筋である。不思議なのだが、幼女が城宮を「パパやん」と呼ぶのはいいとしても、城宮は最初から父親になろうとしているし、マチも純粋に(おそらく城宮への恋愛感情から)お節介にも2人の面倒を見ようとしている。良き親になろうという四苦八苦する描写はあるが、これでは攫ってきた子供である必要性が無い。それこそ『万引き家族』のような、血縁に寄らない新たな家族関係を提案する話にはなっていない。かといって、偽りの家族関係であることから「この幸せがいつまで続くのか」と不安を煽るわけでもない。

バイト先で若者にキレられる(それまでの伏線、一切無し)とか、どれもこれも類型的なうえに浅いエピソードばかりで、何なんだろうと思って原作漫画を読んでみた。驚いたのだが、この原作、相当ぶっ飛んでいるのである。絵柄もあるのだが、とにかく全ての登場人物が狂っている。劇中で中野英雄が演じる、いきなり現れて城宮を諭すおじさんがいるが、原作では「他人の子供を叱る自分に酔っている男」という頭のおかしい人なのである。戸神マチにしたって同様で、他人から感謝されることで快感を覚えるからという自己中な欲望によって警察官になったわけである。映画だとただの母性溢れるツンデレってだけで、そもそも警察官という設定が無意味なのだけれど。

これ、誘拐した幼女を育てるという原作の設定だけ頂戴して、登場人物全員を社会常識のある善人に変更しているから、おかしなことになっている。ロリコン(というかペドフィリア)設定を排除された城宮を含め、誰も彼もが清く正しく真っ当で、幼女の誘拐すらも当然の善行として処理される(真っ当ではない一名は、正しさによって殺される)。さらには、主演の千原ジュニアが「自分にとっての正論を声高に訴える」ことで笑いを取る芸人なのも、映画の正しさに拍車をかける。千原ジュニアが声を震わせて何か言うたびに、これは正論であるというメッセージが付加するのだ。泣かせようとする場面は、どれも千原ジュニアの顔芸でどうにかしようとしていたし。何だそれ。

城宮はiPhoneを持っていたので、時代設定は最近らしい。面倒なので端折るが城宮は人をひとり殺したため、ラストでは13年間の獄中生活を送っている。ということは、けっこうな未来なはずだが、おそらく何も考えていない。幼女は成長して高校生になり(清水富美加が、やっと登場)、城宮とガラス越しに面会して「京大の法学部に受かったから、弁護士になって助けてあげる」とか言う。いや、とっくの昔に結審しているから刑務所にいるんでしょ。あと、どういう判決だったか知らないが、ひとり殺しただけで既に13年も刑務所に入っているなら、彼女が弁護士になるより先にシャバに出てくると思うんだけど。再審請求をするってことなの? 本当に意味が解らなかったんだけど、細部を詰めるってこういうことだよ

最後は、それまで一度たりとも出てこなかった「色の塗られた少女漫画」を取り出してきて、千原ジュニアと清水富美加がふたりでワンワン泣いていた。勝手にやってくれ。

 

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