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【邦画】『コーヒーが冷めないうちに』ネタバレ感想レビュー--コーヒーに何か混入するかして幻覚でも見せていたのかと思ったが、そうでもないらしい

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監督:塚原あゆ子/脚本:奥寺佐渡子/原作:川口俊和
配給:東宝/公開:2018年9月21日/上映時間:117分
出演:有村架純、健太郎、波瑠、林遣都、深水元基、松本若菜、薬師丸ひろ子、吉田羊、松重豊、石田ゆり子

 

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54点
タイムリープ(時間移動)モノである。喫茶店のある席でコーヒーを注文すると、自分の希望する過去に戻ることができる。ただし喫茶店から出ることはできず、コーヒーが冷めないうちに(15分くらいか)飲み干して戻ってこないと、過去に囚われたまま「幽霊」となってしまう。そして、過去を変えることはできない。

コーヒーが冷めないうちに

コーヒーが冷めないうちに

 

 

では、最もベタで解りやすい吉田羊のエピソードを追ってみよう。喫茶店の常連である平井八絵子(吉田羊)は、実家が温泉宿だが、両親と喧嘩して東京(だよね?)でバーを経営している。妹の久美(松本若菜)は喫茶店にやってきては「戻ってきてよ」と言いにくるが、八絵子は聞く耳を持たない。なお、この場面には、店員の時田数(有村架純)らもその場にいて、始終を目撃している。

前述のシーンが夏のことで、季節は巡って冬。久美は交通事故で亡くなってしまう。妹に会いたくなった八絵子は、コーヒーの儀式を行って久美が喫茶店に来た日に戻ることにする。過去に戻って久美と再開した八絵子は、いついつの日は交差点を渡るなとか忠告するも、久美はまともに取り合わない。そうこうしているうちに過去にいられる時間が迫り、未来人だと気づいていた店員の時田数が、早く戻ってくださいと忠告し、八絵子はコーヒーを飲み干して現在に戻る。

タイムリープとして気になることは多くて、まずは過去に本来いるはずの八絵子はどこに行ったのか? どうやら過去に戻っている間は同じ人間が同時に存在してはならないらしいが、タイムリープ中はこの世から一時的に消えているのだろうか。さらに、これが一番の謎なのだが、時田数はこの日のことを覚えていないのか? このタイムリープ中の約15分に限れば、過去の改変が行われている。八絵子が過去に行く前と行った後で、時田数(と、その場にいる人たち)は記憶を入れ替えられてなければおかしいではないか。だが、そうだと解る描写は一切ない。

考えられる結論はひとつしかない。タイムリープしている約15分は、正規の歴史とは分離された全く別の時間軸である。だからそこで何をしようが歴史は変化しないし、そもそも本人以外は誰もその過去の記憶が無い。コーヒーに何か混入するかして幻覚でも見せていたのかもしれない。そうでなくても、タイムリープ中の15分は現実ではないと考えるべきである。4つのエピソードのうち3つ目までは、それで辻褄が合う。

だが残念なことに、4つ目のエピソードで、この結論が全否定される。複数人が過去に未来にと飛んでいく、非常にややこしい4つ目のエピソードが、実は最も辻褄が合っている。だが、他の3つの話との整合性が取れない。この時だけは、正規の歴史にタイムリープした人物が現れるのだから。この4つ目は、SFとしてのアイデアは面白いし考えられているだけに、非常にもったいない。ついでに、あの女の子のキャラクターも素晴らしい。

どうも脚本がきちんと練られていないなあと思うところが多い。最後のタイムリープの直前になって新たにルールがポンポン明かされるのは、単純にうまくない。もっと序盤から散りばめておいたほうが、伏線が回収されていく感じになるのに。それでいて、直前まで隠しておいたほうが衝撃が大きいはずの石田ゆり子が何者かという件は前半でハッキリと解ってしまうし。あと、急に未来にも行けるとか言われてしまうと、SF的には非常にややこしいことになる。これ、ちょっと脚本をいじるだけで、未来に行ける設定は無しにできるんだけどなあ

まあ、4回泣けるという宣伝文句は大袈裟だが、白状すると松重豊のときに2回泣きました。ここは相手役の薬師丸ひろ子(松重豊の妻、現在は認知症で夫が誰なのか解らない)が、松重豊が未来人だと気づき、自分がこれからどうなるかも知ったうえで、夫婦の会話をする。お互いが何者か把握しているうえで、心の中とは真逆の表情で真逆のことを喋る。この、心とは真逆の演技って、ベテランでないと出せない味である。『BLEACH』の杉咲花とか、当たり前だができていなかったし。

ただ、この「相手に未来人だと気づかれる」という一捻りあるパターンが2番目で、相手が何も知らない王道パターンが次の3番目というのも、やっぱりうまくないけど。あと、喫茶店の外のシーン、割合として多すぎないかな。そのせいで、全体的に散漫になっちゃっているような。

 

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