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【邦画/アニメ】『アラーニェの虫籠』ネタバレ感想レビュー--「とにかくホラーっぽい感じ」を詰め込んだ、"要素"のごった煮は悪くない

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監督&脚本&アニメーション&原作&音楽:坂本サク
配給:プレシディオ/公開:2018年8月18日/上映時間:75分
出演:花澤香菜、白本彩奈、伊藤陽佑、片山福十郎、バトリ勝悟

 

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57点
アニメーション作家の坂本サクが、ほぼ一人で創り上げた長編アニメーション。新海誠が『ほしのこえ』をマッキントッシュ1台で制作した衝撃を思い出すが、今回は75分の長編である。技術の発展もあるだろうが、一定の世界観は保たれており、クオリティ面で引っかかるところがないのは単純に素晴らしい。

そうはいっても、ひとりでやっているがゆえの、アニメーションとしてのぎこちなさはある。特に、キャラクターの単純な動作(歩くところなど)は、明らかに動画の枚数が少なく、昨今のアニメを見慣れていると違和感を覚える。だがそんなぎこちなさは、別に目障りというわけではなく、むしろ本作の味となって機能している。実写で言うところの「手持ちカメラを揺らすシーン」も妙に多いのだが、ホラーの風味を盛り上げるのにプラスに働いている。ひとりでの作業ゆえに手抜きとなってしまうところを、逆手に取って雰囲気づくりの一助としているのは、頭がいい。

主な舞台は、郊外の廃工場をリノベーションしたと思われる巨大マンション。修繕も行き届いてなく、使用されていない広い部屋なんかもあって、共用部分は普通に廃墟。そこに引っ越してきた女子大生・りんは、救急車で運ばれる老婆の腕から巨大な虫(何かの幼虫?)が飛び出るのを目撃してしまう。

虫を気味悪い存在として提示した、グロテスクなホラーというのが本作のメインだろうか。といっても、虫そのものの描写は、目をそむけたくなるほどでもない。虫の形状に生理的な嫌悪感を抱くかどうかは個人差があるだろうが、劇中ではその個人的感覚に委ねたところで留まっている。人を狂わせる蛾の大群とか出てくるが、数が多いだけだし。巨大な虫に頭を食いちぎられるとか、そういうリアルを超えた虫絡みのホラー描写は、ほとんどない。

この作品、やたら"要素"が多い。マンション付近では首を90度に折られた遺体がいくつも発見されていて、40年前には謎の伝染病が発生していて、戦時中には虫による「死なない兵士」を作るための人体実験が行われていたという。まあ、ここまでは「古来から人知れず存在している虫の仕業」ということで、一応は繋がった話だといえる。

ただここに、バレエを踊る14歳の少女とか、和装の呪術師とか、どこにでも現れる謎の男とか、乳母車を押す謎の女とか、方々からいろんな「なんかホラーっぽい存在」が押し寄せてくる。虫との関連性が曖昧にされているのはいいとしても、全く整理できていない。そもそも、廃工場をリノベーションした巨大マンションなんてものも、ホラー描写したいがためにこしらえた空間でしかない。後半、主人公はどんどん奥のほうに潜り込んでいくのだが、ありえないくらいでかいうえに、どこもかしこも物語上の意味より先に「なんかホラーっぽい空間」という舞台装置のためだけに創られている。

この、ストーリーとかテーマとかを差し置いて、とにかくホラーっぽい感じを最優先して詰め込みまくった本末転倒ぶりは、本来なら批判されるべきであろう。でも個人的には、この"要素"のごった煮な感じが、ちょっと面白く感じた。そもそもが一人で創っているわけだし、自分のやりたいこと最優先で好き勝手やったって別にいいではないか。あの、車を運転中にラジオの音声がおかしくなってからの突拍子のない展開は良かった。誰が何のためにあんな事態を引き起こしているのかは全く不明だが。

まあ、古の存在と対峙しているはずなのに、結局は個人のトラウマに帰結する展開は、ありがちながらどうかと思ったが。ただこれも、「主人公にこういう過去があるの、なんかホラーっぽいでしょ」という、"要素"のごった煮のひとつってだけなんだけど。

 

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