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【邦画】『イマジネーションゲーム』ネタバレ感想レビュー--久本雅美と板野友美が織りなす、強引なパワープレーによるシュールレアリスム

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監督&脚本:畑泰介
配給:プレシディオ/公開:2018年7月28日/上映時間:91分
出演:久本雅美、板野友美、田中幸太朗、仙石みなみ、鷲尾修斗、長州小力、ヨッピー、カリスマブラザーズ、水橋研二、東ちづる、小沢仁志、寺島進

 

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55点
大手ゼネコンのやり手部長である早見真紀子(久本雅美)は、結婚も諦めて女を捨てて仕事一筋で生きている。他人にも完璧を求める性格のため、後輩の白石久美子(仙石みなみ)をイビリまくり、社内では陰口が絶えない。そんな彼女だが、生脱ぎのパンティーを都内のどこかに隠す様子をネット配信して探させるという裏の顔を持ち、「真夜中の女神」としてネット上ではカリスマ的存在となっていた。

イマジネーションゲーム

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どうですか、この設定。もちろん久本雅美(今回は、役名じゃなくて役者名で統一します)はネット上では顔は見せず、年齢も偽っているが、それにしたって顔も解らない女(というか、性別すら不明だろう)のパンティー欲しさに深夜の公園に群がるネット民という画は凄まじい。パンティーを巡って殴り合いとか起きているし。そういうわけで、冒頭から何度も、久本雅美がパンティー(この単語、日常で使う?)を脱ぐ足の映像が流れるのである。この映像から感じる虚無感は、久本雅美の心情とリンクしているので、一応は正しい。

一方、専業主婦の池内葵(板野友美)は、夫(田中幸太朗)の夕食に布巾の搾りかすを混ぜたりといった嫌がらせをしては復讐サイトの掲示板に報告して、「ジャンヌ・ダルク」と呼ばれて絶賛を浴びている。しかし、夫は探偵を雇ったことで復讐サイトの書き込みを知ることになる。さらには、板野友美が自分の歯ブラシを便器に擦り付けているという、自宅に仕掛けた隠しカメラの映像を見せられる。

復讐方法が古典的でオリジナリティが無く、そんな程度のことでネット上で讃えられるかという疑問もある。が、それよりトイレにカメラを仕掛けているということは、ともちんの排泄シーンも赤の他人である探偵が見ているはずなのだが、夫は何も思わないのか。そこまで夫婦関係が壊れているということか。久本雅美のパンティーといい、この映画、ところどころで妙にエグい。

それにしても、ネットの書き込みが盛り上がっていることを表す演出が、黒い画面に白い文字の文章を出すというのは、さすがに時代遅れ過ぎやしないか。カタカタというキーボードの音まで入っているのだが、これって舞台は90年代とかではなく、ユーチューバーが人気だという最近の話だからね。書き込みなんて、ほとんどの人はスマホからフリック入力だろう。ネット世論を表現するのに「2ちゃんねる」風の掲示板を出すのだって古臭いというのに、真っ黒な画面に一行ずつ入力された文章が出てくるなんて、森田芳光監督『(ハル)』くらい大昔の演出である。

さて、夫への嫌がらせがバレた板野友美は自宅から逃げ出し、深夜の公園でパンティー隠し中だった久本雅美と出会う。パンティーに釣られて集まってくるネット民を2人で高みの見物していると、熱狂的な「真夜中の女神」ファンである小沢仁志に、板野友美は顔を見られてしまう(板野友美は例のアヒル口で小沢仁志に向かって手を振っている。何してんだ?)。「真夜中の女神」を捕まえようとする小沢仁志から間一髪で逃げ出したものの、小沢仁志は板野友美が「真夜中の女神」だと勘違いしてしまう。

本当に信じられないのだが、小沢仁志が出てくるのはこのシーンだけなんである。板野友美が「真夜中の女神」だと勘違いされた件は、このあとのストーリーには一切絡んでこない。普通に考えたら、前フリだと思うんだが。なんというか、脚本構成の常識が全く通じない。そのため、本当に先が読めないのである。

なんだかんだで板野友美は、久本雅美の住む高級マンションに居候することになる。久本雅美から「次はあなたがやりなさい」と大量のパンティーを渡されそうになるが、それについては板野友美は拒絶する。で、久本雅美は「今夜は5枚のパンティーを隠しまーす」と、渋谷のあちこちにパンティーを置いていく。よく解らないが、5枚重ねて履いているのか、それとも1枚脱ぐごとにこっそり1枚履いているのか。どちらにせよ、使用済みとは言い難いが、そんなのでも欲しいのか。そして、隠すとか言っておきながら、車道の端っこに落としているだけだったりするのだが。

5枚目のパンティーを公園の男子トイレの中に隠す様子を生配信していたところ、警察に見つかってしまう久本雅美。逃げ出そうとしたために公務執行妨害だと捕まる様子が生配信されたため、「真夜中の女神」を助けようとネット民が集まってくる。そこで、久本雅美はネット民に顔を見られ、「ババアだった」と一気に広まるのである。

寺島進演じる刑事から薬物の売人だという疑いをかけられたために警察署で一晩過ごす久本雅美。なお、寺島進もこのシーンを含めて2度しか登場しないし、ストーリーとはほぼ無関係。小沢仁志といい、寺島進といい、名優の無駄づかいぶりが半端ない。で、「真夜中の女神」が大手ゼネコン勤務のオバサンだという衝撃の事実は、連日ワイドショーが取り上げる一大スキャンダルとなり、社内にも知れ渡ってしまう。

ネット描写のリアリティが無い映画って今でも多いけど、このメチャクチャさは、もはや感動的ですらある。警察のお世話になったって言っても男子トイレへの侵入と警官から逃げ出そうとしただけだよ。そんなの、ただの厳重注意だよ。ここ最近のネットトラブルだと、状況としては「フリーおっぱい」の女子高生に近いと思うが、いずれにせよTVが大騒ぎするような件ではないだろう。マイクを持ったリポーターとカメラマンが、久本雅美の自宅マンションの入口を張り込んでいるとか、なんでそんな大騒動になっているのか。世間的には有名人でも何でもないのに。

一方の板野友美は、自宅に戻って夫に離婚届に署名させたあと、別れ際に自分のパンティーを脱いで「プレゼント」と言って渡す。ここに感動的なBGMが重なってくるのだが、この意味不明なパワープレイは嫌いじゃない。もはや何でもアリなんだし、ここまでぶっ飛んでいる展開は笑えてくる。本当に意味不明だが。

さて、パンティー隠しをしていたことが会社にもバレて魂の抜けた状態だった久本雅美だが、自宅を訪れた板野友美となんやかんやあったあと、決心をしてマンションを出る。マンション出入口にたむろしていたレポーター(しかし完全にマンションの私有地で張り込んでいるのだが、管理人に追い出されないのか。公道での撮影許可が下りなかったからなんだろうけど)を引き連れて公園まで向かう。そして、板野友美にスマホを渡して撮影をお願いし、顔出し配信で公園のベンチにパンティーを置く。この間、レポーターたちは適度な距離で久本雅美を取り囲んで無言で見守るのみ。仕事しろ。

朝になってもパンティーを取りに来る人は現れない(ネットのリアリティを考えれば、冷やかし半分でけっこう人が来ると思うけど、もはやそんなまともなツッコミを入れる状況ではない)。パンティーを見守るのにも飽きて、公園のあちこちで眠りについているレポーターたち(こいつら、マジでバカなのか)。と、そこに現れたのはホームレス。レポーターたちが息を呑んで見守る中、おもむろにパンティーを手に取ると、そのままゆっくり歩いてゴミ箱に入れる。落胆の空気が流れる中、いきなり現れたのは久本雅美がイビってきた後輩の仙石みなみ。ゴミ箱からパンティーを取り出し、久本雅美のいるほうに向かって掲げると、「先輩、愛はこんなのじゃないですよ!」と叫ぶ。セリフは正確に覚えていないけど、全体を通してワケが解らないので、もう何でもいいや。

ともかく、ここまでナンセンスでメチャクチャな展開は久しぶりであった。後半の畳みかけるようなワケの解らなさは、ある種のシュールレアリスムのようでもあったし(ちょっと言い過ぎてます)。カリスマブラザーズとかいう人気ユーチューバーまで出演させておきながら、ここまでネットへの理解が無いのも、なかなか希少である。久本雅美はベテランの女優なので安定感があるが、全ての感情をアヒル口だけで表す板野友美の能面のような不気味さもなかなか良かった。けっこう、観ていて満足してしまったのである

 

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