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【邦画】『榎田貿易堂』ネタバレ感想レビュー--オフビートな笑いの中で、ひとり浮いている渋川清彦

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監督&脚本:飯塚健
配給:アルゴ・ピクチャーズ/公開:2018年6月9日/上映時間:110分
出演:渋川清彦、森岡龍、伊藤沙莉、滝藤賢一、片岡礼子、根岸季衣、余貴美子、諏訪太朗

 

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57点
名バイプレイヤーとして知られる渋川清彦が、同郷である飯塚健監督とタッグを組んで制作した、地元の群馬県渋川市を舞台にしたオリジナル脚本の作品。こういう個人の想いから生まれた作品が、企画倒れにならずに最後まで完成できて上映まで行えるのは、監督の(いろんな意味での)力量に加えて、渋川清彦がこれまで積み上げてきたキャリアのおかげもあるだろう。そういう意味では観客は暖かい目で観ればそれでいいのだが、ちょっと気づいてしまったことがありまして…

群馬県渋川市の伊香保温泉に通じる道の途中に、「ゴミ以外なら何でも引き取る」という信条のリサイクルショップ「榎田貿易堂」をオープンした榎田洋一郎(渋川清彦)。観光客もけっこう来るため、従業員2人を雇えるほどの繁盛ぶりである。客が訪れているシーンを何度も挟んだり、ネットオークションに出品したら意外な高額で売れたという挿話を挟んだりと、邦画の一大ジャンルである「変わったお店」モノにしては、一応は利益が出ているアピールは怠っていないのは好印象

いわゆるオフビートな笑いというやつだろう。一般社会から外れた立ち位置で飄々を生きている榎田を中心として、周りにいる従業員や常連客などが、ちょっとした事件を起こしていく。目線を合わせない乾いた会話劇が主体で、今年だと『ホペイロの憂鬱』に似た感じか。森岡龍、滝藤賢一、余貴美子といった手練れの役者(これだけのメンツを揃えられるのも、渋川清彦の人間力なのだろうか)を揃えているため、その辺りは安心して笑える創りとなっている。

気になるのは、作品全体はそんなカラッとしたドライな印象なのに、シモネタが多く、しかも妙に生々しいところ。冒頭からそうで、榎田が客のいない美容院を訪れては女店主(片岡礼子)と性行為に励むのだが、その様子を窓の外から男子小学生に覗かせて、あとで鑑賞料として300円貰っている。笑って済ますには問題が大きくて戸惑う。内容だけでなく画的にもそうで、余貴美子は諏訪太朗と激しくたちバックする様子がスクリーンに大写しになる。誰も求めていない画だが、誰も求めていないよとツッコミを入れるのもためらうくらい生々しく、汗の飛沫が飛んできそうだ。

(ちなみに諏訪太朗は、この後さらに衝撃の痴態を晒している。是非、ここだけでも映画館のスクリーンで観て欲しいです)

ドライな映画の中での生々しいシモネタは、狙いではあるのだろう。「俺たちは自由に映画を造っているんだぜ」というアピールかもしれない。ただ、もうひとつ生々しいものがあって、それは渋川清彦その人である。手練れの役者陣がオフビートな笑いを繰り出す中で、経歴なら負けていないはずの渋川清彦だけが、ひとり浮いている。超意外なのだが、渋川清彦って、コメディに向いていないのだ。思い返してみると、渋川清彦はアウトローなイメージが強いが、その中でも芯の通ったマジメな役柄が多いのだ。脇に構えていて、迷える人物に真っ当な道を提示する、みたいなポジション。本作のような、飄々とした風来坊みたいな役柄には慣れておらず、どうしても生々しいウェットさが滲み出てしまっている

後半、警察署の前で榎田が大声で喚いて暴れるシーンがある。あの飄々として何を考えているか解らない榎田がこんなにも感情を露にするなんて、という本作最大のヤマ場なのだが、最初からずっと渋川清彦がウェットな状態なので、そこまでのインパクトが無い。渋川清彦の生々しさはオフビートな笑いには向いていないと、本作によって気づいてしまったのである


不勉強にして初めて名前を知ったのだが、従業員役の伊藤沙莉という人が良かった。旦那との性生活がうまくいっておらずやさぐれている28歳の人妻という役なのだが、幼さの残る顔立ち(元子役らしい)に似合わない酒焼けのようなハスキーボイスによって、男勝りなところと女の色気が絶妙の配分で同居していた。伊香保温泉の名スポット「珍宝館」(『月曜から夜ふかし』でおなじみ)にて、恥じらいながらも一生懸命に旦那を誘う仕草は逸脱。このシーンのシモネタだけはドライであり、ただただ素直に笑ってしまった。この人、今後も注目していきたい。

 

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