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【邦画】『恋は雨上がりのように』ネタバレ感想レビュー--小松菜奈に恋愛感情を持たれたら、恐怖でしかない

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監督:永井聡/脚本:坂口理子/原作:眉月じゅん
配給:東宝/公開:2018年5月25日/上映時間:112分
出演:小松菜奈、大泉洋、清野菜名、磯村勇斗、葉山奨之、松本穂香、山本舞香、濱田マリ、戸次重幸、吉田羊

 

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63点
45歳のバツイチ子持ちの中年男性が、17歳の女子高生から恋愛感情を持たれて迫られる。昨今の風潮からすれば、これはホラーと捉えることもできる。リアルな空気感は今でも男尊女卑の傾向が強い現代日本であるが、とりあえずタテマエとしては、中年男性よりも女子高生のほうが圧倒的に強者であることになっている。中年男性にとって、女子高生からの恋愛感情なんてものが現実に突きつけられたら、恐怖でしかない

これ、いろいろと微妙な話なんである。特に、恋愛というものは法律だったり世間の目といった社会の枠組みを超えていくからこそ価値があるという大昔からの定説に則ろうとすると、表面的にはジェンダー問題に抵触しているように見えてしまうというのが厄介だ。原作漫画はどちらかというと、社会の枠組みを超えていこう的な傾向があり、中年男性も多少の色気のある絵柄であったり、心の中で「彼女のことが好きなんだな」と思わせる程度のことはしている。一応、年齢を超えた関係性もアリなんじゃないかと思わす程度の恋愛物語になっている。

恋は雨上がりのように(1) (ビッグコミックス)

恋は雨上がりのように(1) (ビッグコミックス)

 

 

対して実写映画のほうであるが、やはり東宝配給でシネコンで大きく展開する大衆作品である以上、青年誌に連載される漫画よりも配慮が必要となってくる。まずは中年男性役に、大泉洋というエロティシズムが微塵もない、男性というよりはキャラクターのような人物を当てている。もう、この時点で恋愛物語では無くなっている。

さらに女子高生役に、小松菜奈という女子高生どころか同じ人間として見るのも難しい、無機質な存在を配役している。オープニングにおいて、あまりに無駄のない完璧なフォームで廊下を駆け抜けさせ、校庭で砂ぼこりを上げながら急停止してこちらを睨むという非現実的なシーンを入れることで、彼女の無機質さをさらに水増ししている。まるでサイボーグであるかのように。

中年男性側の視点から考えていこう。冴えないファミレスの店長が、バイトの女子高生から恋愛感情を持たれて迫られる。当初は「好きです」という言葉も「嫌われていない」という意味だと誤解したりして、コメディ的な扱いになっている。途中で彼女の想いが恋愛のそれだと気づいたときから、彼は戸惑いを覚える。さらには同い年の男が女子高生に猥褻行為をしたというニュースを見て恐怖に震えたりする。最後まで、中年男性のほうが恋愛感情を抱くことはない

純然たるホラーだ。風邪で寝込んでいた自宅アパートにいきなり訪ねてくるのが、雨でずぶ濡れの小松菜奈である。部屋に入れるしか選択肢がないのだが、一人暮らしの部屋に女子高生(しかも店長とバイトという明らかな地位の差がある)を入れるという恐怖。この先、ひとつでも選択肢を間違えたら、社会的に抹殺されるだろう。つい、流れでハグしてしまうが、すぐに隣の部屋まで後ずさりして低調に謝罪していた。間一髪である。その次の日の朝、目覚めたら台所で鍋が火にかかっていたところも、恐怖だったなあ。友人が来ただけだったのだが。

一方の、女子高生側の視点である。彼女が恋愛感情を抱いたきっかけとなるエピソードは、原作漫画では最終巻で明らかになるのだが、映画では割と早めに示される。陸上部のエースだった彼女がケガで走れなくなるかもという時に出会ったのがファミレスの店長である中年男性だったわけで、現実逃避の意味合いが強い。この恋愛感情が、弱った心による一時的な気の迷いであることが、早めに提示される。

そして、この恋愛感情なるものは、女子高生が再び陸上と向き合おうとする時に、ある意味では障壁のように邪魔してくるのである。障壁というのは言い過ぎか。だが、変に自分の中で膨れ上がってしまった恋愛感情に対して、何かしらの落とし前をつけることで前を向くことができるという構成にはなっている。それがあの、映画オリジナルのラストシーンに繋がっていく。

結論としては、中年男性からしたら恋愛感情はホラーにおける怪物であり、女子高生からしたら恋愛感情は青春物語における障壁であった。どちらにしても、恋愛感情そのものは、乗り越えるべき存在でしかない。良い意味でも悪い意味でも、昨今の恋愛というものに対する風潮を反映しているようである。


この作品、全体的に美術が良い仕事をしていて、ファミレスのバックヤードや、文学青年だった中年男性のアパート室内や子持ちであることがよく解る車内など、小物が抜かりなかった。気になったのは、図書館の本に「100万部突破」という帯が巻いてあったことだが(普通は、ありえない)。あと、教科書にパラパラ漫画を描いていたクラスメートの男、尋常じゃなく絵が巧い。あそこまで人間の骨格を正確に捉えている男子高校生って、かなりレアな逸材ではないか。いや、実際は原作者の画だってことは解っているけど。

 

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