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【邦画】『娼年』ネタバレ感想レビュー--松坂桃李が演じるのは「床上手の処女」の男バージョンではなかったか

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監督、脚本:三浦大輔/原作:石田衣良
配給:ファントム・フィルム/公開:2018年4月6日/上映時間:119分
出演:松坂桃李、真飛聖、冨手麻妙、猪塚健太、桜井ユキ、小柳友、西岡徳馬、江波杏子

 

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61点
話の内容に入る前にひとつ。この映画、場面が変わると漢字とローマ字を併記した地名がテロップ表示される。熱海というのがあったが、それ以外は東京の地名である。渋谷とか新宿とか池袋とか赤坂とか下北沢とか鶯谷とか円山町とか。円山町は渋谷の一部じゃないのか。それはともかく、ストーリー上は都市批評にまで踏み込んでいるわけではないので、最初はテロップの意図が解らなかった。おそらくこれ、例えば「池袋を待ち合わせ場所に指定する女ですよ」といったエクスキューズなのだろう。でも、新宿と渋谷と池袋の空気感の違いが解る人なんて、全国レベルでは少数派だと思うのだが

劇中で都市の違いを色濃く示すのならいいんだけど、そうではなく、東京の都市の空気くらい知っていて当然という意味合いでのテロップ表示なんである。原作は読んでいないけど、おそらく石田衣良の感覚なんだろう。あの人、東京至上主義者(日本イコール東京という価値観を持つ人)だから。

娼年 (集英社文庫)

娼年 (集英社文庫)

 

 

さて、松坂桃李が大胆な濡れ場に挑戦することで、役者としてのステップアップを図ったとして話題の作品である。こういうのって女優の専売特許だと思っていたが、男でもやるんだ。映画中心の生活だと『ユリゴコロ』『彼女がその名を知らない鳥たち』といった作品にも出ているので、別にアイドル的なイメージは無いだろうと思ってしまうのだが、世間的には今でもシンケンレッドってことなんだろうか

偏差値の高い大学生であるリョウこと森中領(松坂桃李)は、講義にも出ずに下北沢でバーテンのバイトをしている。このバー、リョウの知り合い以外に客は来なくていつも閑散としているので、経営状態が心配である。店員もリョウ以外にいないのだが雇われ店長なんだろうか。友達に勝手にタダ酒を振舞っているので、さっさとクビにすべきであろう。

友人でホストの田島進也(小柳友)が連れてきた妖艶な熟女・御堂静香(真飛聖)に店の閉店後に自宅に連れていかれる。そこで静香の娘・咲良(冨手麻妙)とSEXするように言われる。静香は、それを見て採点するのだと。咲良は喋ることもできず耳も聞こえないが、口の動きで何を言っているかは判断できるし、喘ぎ声は出せるという都合のいい設定。激しくSEXしたあと、静香に「あなたは、この程度」と5000円札を渡されるが、咲良がさらに5000円を付け足す。トータル1万円でギリギリ合格。静香から、女性専用のコールクラブ(もちろん違法)を経営しているので、良かったら娼夫(こんな言葉があるか知らないけど、劇中で使用されている)にならないかと誘われる。

で、そこから松坂桃李が売れっ子の娼夫として上り詰めていく様子が、主にいろんな熟女とのSEX描写によって示されていくわけである。具体的な内容を書いてしまうとブログの規約違反になりかねないので割愛するが、リョウはとある必殺技を持っていて、ほとんどのSEX時にはそれを行って女を喘がせる。あれってAVにしか存在しないファンタジー行為かと思っていた。映画で初めて観たかも。

ぶっちゃけ、松坂桃李がいろんなSEXを見せるショーである。おしっこしているところを見てもらうとか、サングラスをかけてのオラオラSEX(客からの要望で演じている)とか、男相手の濃厚なSEXだってある。まあ、一定数の需要はあるのだろう。これをもって松坂桃李が役者として一皮剥けたのかどうかは判断できないが、観て喜ぶ人がいるのなら、映画としての価値は充分だ

映画館内では、けっこう失笑が多かった。特に妻(佐々木心音)とのオラオラSEXを見ていた車椅子の西岡徳馬が自慰を始めて、松坂桃李と同時にフィニッシュするという状況は、俯瞰で観たら非常にバカバカしく、クスクス笑いが絶えなかった。本気の性愛は、当人にとって大真面目であればあるほど、はたから見れば滑稽なものだという証拠であろう。あと、映画終了後の館内のざわめきの大きさは、ここ数年で一番だったかも。

とまあ、SEX描写はどれも可笑しかったのでそれだけでお腹いっぱいなのだが、気になるのは他の部分である。特に、松坂桃李のキャラクター設定が、よく解らない。実は冒頭で彼女らしき人物と激しいSEXをしていて、ここでもう彼が一流のSEX達人であることが解る。「女はつまらない」という価値観も含めて、全てを経験したゆえの境地に至っていると示されている。

なのだが、実際に娼夫として働き始めると、途端に童貞みたいにオドオドするのだ。まあ、真意の読み取れない熟女を相手にしたらそうなるのも当然ではあるが、店のナンバーワンになる逸材には見えない。一応、売れっ子になる理由が「普通だから」と説明されるので、そういう演技プランなんだろうが、だとしたら「女はつまらない」という境地とは矛盾が出てきてしまう。

この人、SEXの技術についてだけは最初からレベルMAXなのに、SEX以外のときは童貞感まる出しなので、熟女のほうは自分がリードすることで優越感に浸れてしまう。ああそうか、これってオタクが求める「床上手の処女」の男バージョンではないか。リアルにはいないファンタジーの存在だ。だから、あんなAVでしか見たことない行為も平気でやっちゃうのか。

「好きな作家はプラトン」という超変化球のあとの、浅すぎる解釈も引っかかったところ。あと、完全に非合法の商売なのに、本名を名乗るのはどうかと思うが。最後に摘発されて経営者の静香は捕まるのだが、資料は破棄したとかでリョウたちはお咎めなし。たった1年後に関係者が集まって商売を再開していたが、そこまで警察は甘くないぞ。

 

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