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【邦画】『ラーメン食いてぇ!』感想レビュー--まさかの海外ロケと、中村ゆりかの病弱フェイスに、ちゃんと意味がある

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監督&脚本:熊谷祐紀/原作:林明輝
配給:ブロードメディア・スタジオ/公開:2018年3月3日
出演:中村ゆりか、葵わかな、片桐仁、石橋蓮司、宅間孝行、森尾由美

 

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63点
冒頭、どこかの高山でボロボロの格好で倒れる男(片桐仁)の描写から、この映画は始まる。ドローンだろうか、かなり上空からのカメラで真上からも撮影しているが、カメラには岩肌と少しの草以外には何も映らない。この規模の映画では珍しく、なかなか壮大な画である。こんなところが日本にあったんだ、よくロケハンしたなあと感心していたのだ、当初は。

 

設定では、どこか海外の高原でロケバスが事故を起こして他の人間は死んでしまい、ひとり遭難している料理研究家、ということらしい。そのうちヤギを連れた遊牧民と出会って助けてもらい、一命をとりとめるという話になるのだが、まだボクは気づかなかった。遊牧民とともにヤギの群れが出てきたときも、よくできた合成だなあとしか思わなかった。

広大な高原にヤギが何匹も放たれ、その中に片桐仁がいるのを見て、やっと気づいた。これ、マジで海外ロケしてるじゃん! 調べてみると、実際にキルギスの高山で1週間(うち移動が4日)撮影したという。日本からの役者は片桐仁ひとりだけ(あとは現地調達)で、スタッフの人数も少ないと予想されるが、いやでも、この規模の映画で海外ロケって。場所からして「制作委員会の慰安旅行のついで」とも思えないし、実際にけっこう過酷だったらしいし。この映画の本気度が垣間見えた。

実際、海外ロケしたからこその風景の美しさがちゃんとあるのだ。どれだけの予算がかかっているのかわからないが、けして無意味ではない。ということを含めて、この映画、けっこうマジに創られている。感動押し付け描写が過剰だとか、相手の言ったセリフをそのまま繰り返すとか、不満はいっぱいあるんだけれど、創り手の真摯な思いがきちんと形になって伝わってくるので、好感を覚えた。

さて、実は本作の主な舞台は群馬県である。有名なラーメン屋の孫娘である女子高生が、お爺さんからラーメンの作り方を教わって店を再生させるという話。海外ロケのシーンは、割と単調なストーリーの合間に挟まるアクセントとして機能している。そう考えると、やっぱり海外ロケは必要であった。

ストーリーは単調だが、細部で気が利いている。自殺未遂した主人公(中村ゆりか)にお爺さん(石橋蓮司)が病室でラーメンのスープを飲ませるシーンがあるのだが、そのあとちゃんと看護師から怒られている。別にそんなシーン必要ないのに。高校生が学校の屋上で群馬の名物の何か(忘れた)を焼いているときも、ちゃんと教師から怒られている。ラーメン修行における時間経過も変ではないし、最低限の常識は保たれている。

あとやっぱり、実際にラーメンを作るシーンは、きちんとしている。料理シーンはプロによる吹替もあるのだが、役者との繋がりはスマートで気にならない。手を抜いてはいけないところがどこか、ちゃんとわかっている。食べるシーンも、宅間孝行や森尾由美といった場数を踏んだ役者を揃えているため、ある程度のわざとらしさを含んだうえで美味しそうに食べるし。

女子高生の友情の話もあるわけだが、ちょっとしたことからネットでの悪口を介することで自殺未遂まで陥るところは、今のリアルなんだろうなあ。それでいて割と簡単に友情は修復されているし。自分の娘を自殺未遂にまで追いやった相手に対して何も言わない両親は、ちょっとどうかと思ったが。

主人公役の中村ゆりかがずっと病弱な顔つきだったのが良かった(たぶん、普段からこういう顔なんだろう)。健康女子である葵わかなとの対比にもなっていたし、物語上の意味もあった。あと、(分かり切ったことなのでラストに触れるが)ラーメン屋を訪れた片桐仁が一度ラーメンを食べるのを拒否するのだが、そのあとのあの人のあの行動は、意外性があったうえで話の流れからして論理的でもあり、少し笑ってしまった。

ともかく、意外な良作なので観て損はないです。映画館の帰りに「ラーメン食いてぇ!」って思います。ただ、映画で観たラーメンを実際に食べようと思っても食べられないのが難点。

 

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