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【邦画】『羊の木』感想レビュー--殺人犯が出所後にまた人を殺すことって、よくあるの?

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監督:吉田大八/脚本:香川まさひと/原作:山上たつひこ、いがらしみきお
配給:アスミック・エース/公開:2018年2月3日/上映時間:126分
出演:錦戸亮、木村文乃、松田龍平、北村一輝、優香、田中泯

 

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56点
元殺人犯という存在に対して、一般的とは全く逆の偏見をしていたのかもしれない。「一度殺人を犯した人が、またするわけがない」という偏見だ。「するとは限らない」なら問題ないのだが、「するわけない」というのは決めつけでしかない。というのを、映画『羊の木』を観て思った。

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というのも、この映画は「元殺人犯は異常だ」という一般的なほうの偏見を前提にして作られているからである。6人の元殺人犯が出所後に地方都市に移住するという話だが、静かな町の中に突如放り込まれた異物のような描写をさせられている。周囲の偏見によって歪んだ描写にさせられている、というわけではない(なぜなら住民のほとんどは彼らが元殺人犯であることを知らない)。そこが、逆の偏見を持つボクからすると、やたら引っかかる。

人を殺した元暴力団の男(田中泯)は、いつもしかめっ面で顔に傷があるが、顔を見せただけで周囲が押し黙るという描写はどうなのか。このシーン、周りが黙った理由が本当に解らなかった。そのあと、酔っぱらって暴れる男を止めようとして逆に吹っ飛ばされるという情けない姿を晒したが、なぜそれで「務めている店に客が来なくなる」という事態になるのか。地方にありがちな「閉塞した狭いコミュニティ」を理由とするにも、そっち方向の描写はこの映画には無いし。

あくまで個人的感覚だが、窃盗や性犯罪なら、刑務所を出たあとでもまたやってしまうという常習性も理解できるのである。そういう「病気」の人も多いだろうから。でも殺人犯が出所後にまた人を殺すって、そんな事例はあまり記憶にない。殺人って精神的にも肉体的にも重労働だから、またやりたいとは思いづらいだろうし。まあ、殺人をしてしまう「病気」の場合、捕まった時点でもう外に出てこられないくらいの人数をやっちゃっている場合が多いからかもしれないが。

実際のデータだと、殺人犯の再犯率は17%くらいなので、少ないわけでもない。この場合の再犯は全ての犯罪のことなので、殺人を繰り返す人はもっと少ないわけだが。

実は、元犯罪者の社会復帰とか地方都市の閉塞性といったような、社会システムに対するメッセージ性は、映画『羊の木』には少ない。この映画でいう元殺人犯は、地方都市に混入された異物というだけだ。そこを強調するために、吉田大八監督らしからぬステレオタイプな演出が目立つ。理容師の男(水澤紳吾)は、刑務所に入っていたことがバレそうになると剃刀を持つ手が異常に震えたりする。なんだかコントみたいだが、そういった異物感の強調が、「元殺人犯は異常だ」という一般的なほうでの偏見を助長させるのではないかと心配になる。

デリケートな話になってきそうなので方向転換するが、この映画、構成がおかしい。というか、明らかに失敗している。町に入りこんだ異物のおかげでおかしくなるという話なら、元殺人犯はメインストーリーを担う2人だけでいいのだ。もちろん「元殺人犯だって色々いる」ということを示すために、他の人たちを置くべきではあるが、あとの4人は「その他大勢」という扱いでもない。

元殺人犯6人と主人公カップル(付き合ってないが)による群像劇のような前半なのだが、色々と前フリをされていた元殺人犯のうち4人は、後半ではほとんど登場すらせず、ラストでなんかいつの間にか問題が解決したみたいなことになっている。住民にとって大切な祭りの席で酒に酔って大暴れした男が、どうやってコミュニティにそのままいられることになったのか、その説明は一切ない。いくらなんでも投げっ放しである。

役者の演技を褒めるのは他に褒めるところが無いから、という持論を踏まえたうえで、無自覚に巨乳をアピールしてエロスをぶちまけていた優香は良かった。ちゃんとオッサン(北見敏之)とディープキスまでしていたが、そこまでして投げかけてくる問題提起が「元殺人犯は恋をしちゃいけないのか」って、浅くないか。あと、松田龍平は、心が無い役をすると抜群に光る。宇宙人に乗っ取られた人とか。セリフが棒読みってことなんだけど。

 

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