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【邦画】『不能犯』--松坂桃李にも沢尻エリカにも感情移入できない観客の視点となるのは…

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監督:白石晃士/脚本:山岡潤平、白石晃士/原作:宮月新
配給:ショウゲート/公開:2018年2月1日/上映時間:106分
出演:松坂桃李、沢尻エリカ、新田真剣佑、間宮祥太朗、矢田亜希子、小林稔侍

 

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58点
これ、漫画原作だったのね。先に知っていたら、また違った感慨があったのかもしれない。いや、複数のエピソードがギュッと押し込められている展開から、ある程度連載が続いている原作の存在を予測しなくてはいけなかった。まだまだだな、自分は。

不能犯 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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松坂桃李は、マインドコントロールで人を殺すことのできる特殊能力者。とある闇金屋に向かってガムシロを入れた水をぶっかけて「スズメバチが好む匂いです」と言う。そして枯れ木の入ったガラス瓶を取り出して目の前で開けると、闇金屋は勝手に瓶に入っているのが大量のスズメバチで、自分を刺してくると思い込んでしまうのである。結果、何もされていないのに毒が回ったかのように体が勘違いして、死に至る。

劇中でもプラシーボ効果といった単語が出てきたりするので、まあフィクションとしては理解できる。ただこのあと、一度見つめた相手だったら本人はその場にいなくてもいつ何時だろうと催眠をかけたりしているので、もう医学的説明とかどうでもいい万能の超能力者だったりするのだが。

話の構成であるが、スズメバチの件で沢尻エリカら警察が松坂桃李の存在に気付いた後、大きく4つの事件が起こる。つまり、松坂桃李に4人の人物が殺しの依頼をする。ちなみに依頼方法は電話ボックスに殺したい相手と理由を書いた紙を貼っておくというもの。4つの事件のうち、2つは構造がよく似ている。ちょっと解説してみる。

依頼人Aが松坂桃李に殺し(など)の依頼をする。この時、直接会って相手がいかに憎いかを訴える。そして松坂桃李は能力を使って相手Bを殺す。そのあとAに再度接触し、Bについての情報を渡す。それを見たAは、恨んでいたBが実は自分の勘違いであったと気づく。そして自分のやってしまった罪に苛まれて、自らも命を絶つ。その一連の光景を眺めていた松坂桃李は、「人間は脆い」とか一人ごちる。

ちなみに4つの事件のうち上記とは違う1つは、「Bへの憎悪が勘違いだった」という一点を除いて、やはり同じ構造だ。残り1つだけはAの顛末が劇中で描かれていない。おそらく原作では、このパターンが繰り返されているのであろう。ともかく、ここで重要なのは、上記においてBが死ぬ理由が一切ないところだ。

松坂桃李は、Aが脆く崩れるのを見たいがためだけに、ただの善人であるBを殺している。どうやって調査しているのか不明だが、Bが何も悪くないことを知ったうえでだ。この一点において、松坂桃李をピカレスクロマンにおけるアンチヒーローとして応援することはできない。あと、特に後半、そんな適当な殺意で、みたいな依頼でも受けてたりしてるし。コイツ、それっぽいセリフは言うものの、実際の行動に美学が無い。

では観客は誰の視点でこの話を享受すればいいのか。主人公であり、松坂桃李を追い詰めようとする沢尻エリカか。それも難しい。なぜなら沢尻エリカは、マインドコントロールが効かない「選ばれし者」であるにもかかわらず、もはや絶対悪である松坂桃李を倒すことすら躊躇しているガラスのハートだからだ。何者でもないが何者かになりたい凡人である大多数の観客が感情移入するには、こんなちぐはぐなキャラではハードルが高い。

では、この映画において観客が感情移入できる一番の相手は誰か。依頼人Aだろう。それしかない。誰かに対して純粋な殺意を持つことは、経験がある人も多いだろう。そして実際に相手が死んだときの罪悪感も、この映画を通して感じることができる。しかも悪人から「人間は脆い」とか言われるのだ。非常に嫌な気分だが、この映画から得られる唯一のものだ。

ラスト、クライマックスに入る手前で話を進行させるためだけにコンビニが大爆発しているのだが、なんかフォローは無いのか。あと、「僕はやってません」の文字は逆じゃないかな。読みやすいように、わざわざ向きを考えて書いたのか。そんな冷静な思考ができる状況じゃないと思うが。

 

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