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【邦画】『祈りの幕が下りる時』感想レビュー--阿部寛はコメディアンである

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監督:福澤克雄/脚本:李正美/原作:東野圭吾
配給:東宝/公開:2018年1月27日/上映時間:119分
出演:阿部寛、松嶋菜々子、溝端淳平、田中麗奈、キムラ緑子、烏丸せつこ

 

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61点
原作の功績によるところも大きいと予想されるのだが、ちゃんとしたミステリ映画になっているのである。改めて思い返すと、けっこう入り組んだ構造なのだが、観てる間はそれほどややこしいと感じなかった。最終的に「ある人物がある人物の首を絞めて殺す」というシーンが出てくるのだが、かなり荒唐無稽な状況にもかかわらず、それまで積み重ねてきたもののおかげで、説得力を持たせている。

祈りの幕が下りる時 (講談社文庫)

祈りの幕が下りる時 (講談社文庫)

 

 

いやほんと、「首を絞めるシーンで泣かせようとする」なんていうメチャクチャな挑戦をしていて、一応は成立させているというだけで、この映画を観る価値はあるはず。16年もあることをし続けていたという主人公の阿部寛を含めて、よくよく考えると異常者ばかりなのだが、それらを感じさせないのが、実は異常だったりする。

警察モノとして意外に感じたのは、所轄の阿部寛や若手刑事の溝端淳平の意見を、上の人たちがちゃんと聞くんだよね。よくある「捜査本部内での上司との対立」みたいにならず、阿部寛なり溝端淳平なりが何かしら推測を立てると次の瞬間には上司の春風亭昇太があの声で「大変なことがわかったぞー」って叫んで話が展開していく。

「頭ごなしに若手を否定する上司」という「警察映画あるある」をしなかったのは、この話においては邪魔だったからだろう。そういう思い切りの良さが、この映画の価値を高めている。予告ではウザさしか感じなかった春風亭昇太のあの声も、捜査がひとつ進展した時の合図として機能していた。


さて、阿部寛はコメディアンである。芸能界をやめようと考えていた時期に出演し、役者として開眼したきっかけが『TRICK』であった。現在に至るまで、阿部寛の演技プランは『TRICK』の上田教授と同じだ。阿部寛には喜怒哀楽といった表情の豊かさに乏しい。「ニヤニヤ」とか「フッフッフッ」という作り笑いのようなことはするが、「ハッハッハッ」という大笑いは珍しいし、同様に大声で怒ったり号泣したりすることも極めて少ない。それが阿部寛の味であり、大抵の作品では良い方向に転がっている。

あの身長も、あの濃い顔も、あの低い声も、日本人男性の平均から外れた規格外ということもあるのだろう。そんな存在が普通のことをすればちょっと面白いし、ちょっと面白いことを言えばすごく面白く感じる。この映画では「マザコンだからな」という決め台詞があったのだが、阿部寛が言うからこその面白さが発生している。やっぱりコメディアンだ。

今回、事件の謎が解けるにしたがって阿部寛の母親についての真実が明らかにされるわけだが、阿部寛という存在だからこそ変に重く感傷的にならずに済んでいる。いろいろ重い話も出てきたのに、「マザコンだからな」の一言でオールOKになる感じ、阿部寛じゃなきゃ無理だろう。TVドラマから続くシリーズのラストとして、すごく締まったものになっていた。阿部寛の正しい使用法だ。

 

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