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【邦画】『わたしたちの家』--主人公の「家」に対する計算された構図とカメラワーク

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監督:清原惟/脚本:清原惟、加藤法子
配給:HEADZ/公開:2018年1月13日/上映時間:80分
出演:河西和香、安野由記子、大沢まりを、藤原芽生、菊沢将憲、古屋利雄

 

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61点
東京藝術大学大学院の修了作品で、PFFアワード2017グランプリの受賞作。非常に判断に困る作品である。というのも、ストーリーだけ追えば、完全に観客に丸投げしているからだ。丸投げしているというのは作品のテーマとかそういうこと以前に、話の意味からしてである。

中学生の少女セリは、父親が失踪していて、母親と2人暮らし。表面上は仲が悪いわけではない母娘だが、母親の新しい彼氏に複雑な感情を抱いている。一方、フェリーの上で目覚めるも一切の記憶を無くした女性さな。同船していた透子に誘われ、彼女の家に住まわせてもらうことになる。全く別の話が同時進行するのだが、なぜか舞台となる家が同じだ。もはや、主人公は家、と言っていい。

この家が非常に不思議である。玄関はシャッターで、内側に半透明のビニールの扉がある。古い木造で1階は玄関からすぐのところに小さな台所と繋がった部屋がある。脇にある階段は幅も狭く急なのだが(今の建築基準法ではアウト)、2階は妙に広く、襖で仕切られたいくつかの部屋を廊下が取り囲んでいる。横に物置があり、その屋上に物干しがある。

セリとさなは、この家に住むわけだが、別に出会うわけでもなくそれぞれの生活をしている。時系列が違うのかと思いきや、セリが障子に開けた穴をさなが見つけたり、お互いに「誰かいる」という感覚を持ったりしているので、別々の並行世界で生活しているということなのかもしれない。室内でも外の音が聞こえやすい家なのだが、都市音に紛れて「もう一つの世界の音」がぼんやり聞こえてきたりするし。

と、こういう曖昧な書き方をしているのは、最後まで答を提示してくれないからである。まあ、並行世界に関する謎はこの映画の主題だからいいかもしれない。しかし、例えば透子が普段何をしているのかとか、そういうサブの件までヒントばっかり散りばめられていて、結局は何も教えてくれないのだ。ここまで問だらけで答えが無いと、マクガフィンというレベルですらなくなっている。

おそらく、観客への問いかけにすることによって映画の風格を作っているのだろう。答え合わせみたいな映画が多い中での反抗かもしれない。にしたって問いかけばかりだとこっちも戸惑うだけなのだが。

それでもこの映画を「芸大の学生の自己満足」と切り捨てられないのは、カメラワークの素晴らしさが際立っているから。家の内部は基本的にフィックスで、人物たちはそれほど変な動きをしているわけでもないのに、家自体の不思議な形状と計算された構図からくる気味の悪さを見せつけてくる。反対に家の外のシーンは移動式カメラを用いていて、対比となっている。

観終わって、投げ出される感覚になる映画は、特にユーロスペースのレイトショー邦画なんかだと度々ある。本作に限って言えば、主人公である家の奇妙さが際立つために、不快な感じはせず、変な体験をしたなという感覚になるので、まあ悪い気はしない。

 

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