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【邦画】『悪と仮面のルール』--異質な子供時代を経て誕生したのが、オロオロ小市民だった

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監督:中村哲平/脚本:黒岩勉/原作:中村文則
配給:ファントム・フィルム/公開:2018年1月13日/上映時間:138分
出演:玉木宏、新木優子、吉沢亮、中村達也、村井國夫、柄本明

 

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49点
中村文則の小説は初期のものをすこし読んだだけで、ここ最近の大作には手を出していないのだが、こんなペラペラな話なんだろうか。オートロック付き高級マンション内の自宅にいとも簡単に入り込んでくるようなヤバいヤツに睨まれているというのに、特に対策もしないなんてことがあるだろうか。

悪と仮面のルール (講談社文庫)

悪と仮面のルール (講談社文庫)

 

 

この話、とにかく風呂敷を広げている。財閥の家系に生まれた主人公は子供の頃から世界を牛耳るために「”邪”になるための教育」を受けていたが、恋をしていた養子の娘を凌辱した(たぶん。一応これも”邪”になるための教育の一環らしい)父親を殺し、家から逃げ出す。大人になったのち、顔を変えて別人となった主人公は、探偵を雇って初恋の相手を監視する。

ここまで大それた設定なら、主人公の玉木宏は狂人でなくてはいけない。たったひとつの純愛のために、女性の幸せを邪魔する者を無慈悲に排除していくという話になるのが普通だ。でもさ、大して何もしないんだよ。一応、最初のほうで男をひとり殺すけれど(また、自分の手を汚さないつまらない殺し方なんだが)、あとは初恋の相手を遠くから見かけてはオロオロするだけ。こんなに絵に描いたようなオロオロぶりは滅多に見られないってくらい、オロオロしている。クラスの女子に恋する男子中学生みたい。童貞なのか。

広げた風呂敷の割には、出てくる人たちが小市民ばっかりなんである。探偵(光石研)も最終的には親戚のおじさんみたいだったし。要所で登場する刑事も、さすが演じているのが柄本明だけあって画は持たせるのだが、ストーリーとはほとんど関係ないうえに、最後には「あなたは普通だ」みたいなこと言うし。

あと、主人公のかつての家族である財閥の人。「戦争を起こして金を儲けるんだ」とか言っている。いかにもな謎の小部屋でデカい椅子に座ってウイスキー飲みながら、そんなことを口先で言っているだけだから、ペラペラ度合いが半端ない。「ぼくのかんがえたさいきょうのふぃくさー」って感じか。

あとこの話、改めて思い返すと、顔を変えた意味があんまりない(一番知られちゃいけない相手には、はなっからバレてるし)。顔を変えるって、主人公にとっての「顔を変えて過去を消し去るほどの覚悟」もしくは「顔を変えることすら何とも思わないくらい狂っている」のどちらかを表現していると思うんだが、話の展開と無関係だったら、暗喩も何もあったもんじゃない。

最終的には、主人公と初恋の相手の女性が、小市民ぶりをいかんなく発揮してオロオロ全開の会話をして終わる。改めて言うけど、この主人公は「”邪”になるための教育」を受けていて、さらに父親を殺して逃げだしたという、異質な子供時代を過ごしていたんでしょ。全ての過去を消すために、顔を変えているんでしょ。なんでこんな、初恋の相手とまともに話せないという、過去に囚われたままのオロオロ小市民になっているんだ。

最初から最後まで、ここまで深みが一切ないペラペラの映画も珍しかった。原作小説はこんなんじゃないと信じたいのだが。

 

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