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【邦画】『嘘八百』--時間潰しにちょうどいい映画がもっと必要である

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監督:武正晴/脚本:足立紳、今井雅子
配給:ギャガ/公開:2018年1月5日/上映時間:105分
出演:中井貴一、佐々木蔵之介、友近、森川葵、前野朋哉、近藤正臣

 

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61点
予告を観たときは松竹っぽいなあと思ったが、実際に観てみるとむしろ東映じゃないかと思い直し、でも実際にはギャガだった。題材こそ和風だが、一世一代の詐欺によって恨みのある相手をやっつけようとするというコミカルなコン・ゲームの様子が、昔の東映のプログラムピクチャーを思い起こさせた。

舞台は大阪の堺。しがない古物商の小池(中井貴一)は、とある屋敷の蔵の中を見せてもらい、千利休が切腹直前に通仙院(秀吉のかかりつけ医師みたいな人)に贈ったという幻の茶碗を発見する。さっそく屋敷の主人だが茶碗とか全く素人だという貧相な男に対して嘘を並べて安く買い叩く(蔵の中の物全部で100万円)のだが、帰る途中でニセモノと気づく。慌てて屋敷に戻ると、そこには見知らぬ爺さんがいて「私が家主だ」と言う。

という感じの、軽いどんでん返しの話が第1幕に用意されているのだが、中井貴一が騙そうとしているのが佐々木蔵之介だし、この2人が協力して詐欺を働くことは予告で知っているので、観てる側はハナっから中井貴一が逆に騙されているなってことはわかるのである。詐欺コンビの出会いを描くための、10分くらいのアバンタイトルで済ませる挿話でもいいのだが、これがけっこう尺を使っている。

この「結末の解っている安心感」が、適度な緩さとなってプラスに働いている。メインの「幻の利休の茶碗の贋作を作って騙して大金を得る」というのも、騙す相手は2人ともに恨みがあり、実際に悪人でもあるわけだから、詐欺とはいえ勧善懲悪の構図からして勝敗は見えているわけだし。2人は一応は悪いことをしているので、ラストで別方向からのしっぺ返しも食らうわけで、一応の配慮もされているし。要所で配置されている吉本芸人も、この空気感に絶妙にマッチしている。

こういう、手に汗握らないで観られる敷居の低い娯楽映画が、もっと増えてほしいんである。大金をかけたエンタメ超大作と、作家性バリバリのアート系映画ばかりでは、映画はますます一部の人に限定された趣味になっていってしまうのだから。時間潰しにちょうどいい映画がもっと必要である。

 

ところで、『キネマ旬報』に監督、脚本の3人による鼎談が載っていたが、けっこう興味深かった。作中における歴史うんちくが、史実と創作を織り交ぜていることがわかったので。利休が「かもめ」と呼ばれていたのは史実。利休が茶碗に緑色を使ったことはないのも史実。利休と通仙院はどちらも秀吉に近い人物だが、交流していた記録は全くない。劇中に登場する『欠伸稿』は実在の書物だが、そこに載っているという「わたのはら~」という利休の和歌は完全な創作。あの和歌、わざわざテロップで出してまでいるのに。

そして何より驚いたのが、塚地武雅演じるキャラ作り過ぎだろと思っていた学芸員は、監督らが出会った実在の人物がモデルだということ。いきなり話しかけてくるところとか同じだったらしいが、本当にいるのか、あんな人。「ここから見える夕焼けも利休は見てたんでしょうな」という臭いセリフもそのまま頂いたそうだ。どんな嘘よりも事実のほうが嘘っぽい。

 

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