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【邦画/ドキュ】『We Love Television?』--誰が欽ちゃんを殺すのか?

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監督:土屋敏男
配給:日活/公開:2017年11月3日/上映時間:110分
出演:萩本欽一、田中美佐子、河本準一

 

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52点
萩本欽一のことをちゃんと認識したのはいつだったか。ボク(37歳)の年齢だと、欽ちゃんの全盛期は生まれる前の歴史でしかない。存在を知ったのは『欽ちゃんの仮装大賞』だが、かつてTVにおいて超人だったと知ったのは、漫画『ちびまる子ちゃん』ではなかっただろうか。あの漫画の中でヒーローとして扱われる欽ちゃんを見て、そんなすごい人だったのかと認識したと記憶する。

さて映画は、真夜中の自宅前で張り込み、アポなしで欽ちゃんを捕まえる土屋敏男(説明するまでもなく、『電波少年』のプロデューサー)監督の姿から始まる。「欽ちゃん、30%番組をもう一度作りましょう」といきなり言う失礼極まりない男を、欽ちゃんは暖かく自宅に招き入れる。

2011年1月30日というテロップが出るので、これが6年前の映像だとわかる。土屋監督は欽ちゃんにビデオカメラを渡し、番組作成までの記録を自分で撮影するように伝える。そこからは「2011年2月1日(146日前)」(数字は記憶が曖昧)みたいにテロップが出て、カウントダウン形式で話が進む。

ここでとにかく気になるのは、「あと1か月ちょっとで大変なことが起こるぞ」ってことである。もちろんこの件については処理されているし、実際に作るTV番組にも絡んでくるのだが。それ以上に気になることがある。例えば「今のお笑いは面白くない?」と聞かれて、欽ちゃんは「今のお笑いは淋しい」と意味ありげなことを答えたりするのだが、「今」じゃないよね。6年前だよね。この意識のズレはどうすればいいのか。

欽ちゃんは、とにかく語る。語って語って語りつくす。話の内容自体は価値あるものかもしれないが、70歳の老人が自信満々に持論を展開し、周囲の人間が100%の肯定によって有難く拝聴するという絵面そのもののキツさに耐えられない。「5年も10年も残るものは何か、お母ちゃんだ」と言って、実際に母親をテーマにしたコントを作り始める。申し訳ないが、センスが古臭すぎる。

河本準一らを交えてコントを作り、2011年の7月に、実際に日本テレビのゴールデンタイムで特番(『欽ちゃん!30%番組をもう一度作りましょう』)として放送されている。ちゃぶ台を置いたセットに、いじわるばあさん風というステレオタイプにもほどがある格好の母親役である欽ちゃんが、子供役の人たちにツッコミをいれていく。CGとか使っているものの、大昔に自分がやっていたそのままのことをやっている。

番組放送当日の時点で、まだテロップは「(2日前)」となっている。ここで終わりではない。では0日前は何かというと、コント番組の視聴率が発表される日である。車の中で土屋監督は欽ちゃんに「8.0%でした」と伝える。わざわざ映画の終わりをこの日に設定したことから、視聴率を知った時の欽ちゃんの表情が、土屋監督のもっとも撮りたかったものであるのは確かだ。

欽ちゃんは、別に表情を変えず、昔の自分の番組も初回は視聴率が悪かったし、とか言い訳を並べている。数字にうろたえるなり、実力不足だと認めるなりすれば、まだ画になったのに。結果として、土屋監督は欽ちゃんを殺すことができなかった。殺そうと思っていたかどうかは判然としないが、個人的には、欽ちゃんの往生際の悪さだけが心に残った。

欽ちゃんは、自分のお笑い観に強い自信を持っている。ひたすら持論を語る姿から、それは明らかだ。そして、その自信を完璧に形にした結果である特番の視聴率が散々だったとしても、その考えを改める気が無い。周囲が誰も「欽ちゃん、それは古いっスよ」と言ってくれないから。土屋監督も、意外にも爺さんとなった欽ちゃんの才能を未だに盲目的に信じているし。

欽ちゃんは、コント55号の頃からずっとツッコミの人だ。なので、ツッコまれることを解禁するだけで、かつての欽ちゃんを殺すことができる。ダウンタウンとでも共演すればいいのに。現在、欽ちゃんを殺すことのできる筆頭は浜田雅功であろう。本人がツッコまれることを望まず、かつての栄光を保ったままにしたいのなら、完全に隠居してほしい。「あの頃の欽ちゃん」のままでTVに出続けようとすることが痛々しい。

あと、一瞬だけ出てきた飯野賢治は何だったのか。別に番組制作に関わったという話も出ず、その2年後に亡くなったといったフォローも全く無かったのだが。謎である。

 

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