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【邦画】『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』感想レビュー--特殊能力者を主人公にしながら、その能力を全く使わないって

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監督:滝田洋二郎/脚本:林民夫/原作:田中経一
配給:東宝/公開:2017年11月3日/上映時間:126分
出演:二宮和也、西島秀俊、綾野剛、宮崎あおい、西畑大吾、竹野内豊

 

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60点
とにかく観ていて心地いい。さすがはアカデミー協会も認めた職人監督・滝田洋二郎であって、基本を押さえた丁寧な作りである。美点は色々あるけれど、主要人物の背後に動くもの(エキストラなど)を置いて、画面を退屈にさせないという手法が良かった。最近、邦画の大作でも後ろのほうがスカスカなやつ、よくあるもんで。

ラストレシピ 麒麟の舌の記憶 (幻冬舎文庫)

ラストレシピ 麒麟の舌の記憶 (幻冬舎文庫)

 

 

原作は『料理の鉄人』とかを担当したTVバラエティの演出家の人。一度食べたものの味を完全に再現できる「絶対味覚」(サブタイトルの「麒麟の舌」のこと)を持つ男・佐々木充(二宮和也)が、中国料理界の大物から「かつて満州国で山形直太朗(西島秀俊)という料理人が考案した伝説のフルコース「大日本帝国食菜全席」のレシピを再現してほしい」という依頼を受ける。

ここから佐々木が当時の生き証人を見つけては訪ねて話を聞く現在パートと、1930年代の満州を舞台に山形が天皇陛下のためのコース料理を思案する過去パートが交互に描かれる。かなり前半で、山形もまた「絶対味覚」があると判明する。もうここでこの話のオチは大方わかるわけだが。ちなみに、佐々木は少年期を施設で生活していて、本当の親のことは何も知らない。

佐々木は、料理の腕前は天才的だが、他人と馴れ合わず孤独になろうとする人物として登場する。山形直太朗の人となりを当時を知る人物から聞き、さらにはその人物たちが辛うじて現代まで残してきた料理を食べることで、少しづつ変化していく。これまた定型だが、やっぱり丁寧な描写と何より料理そのものに対する演出で、好感が持てる。

そんなこんなで、「まあそうだろうな」という種明かしがあり、それでも全体がきちんと収束していくラストに酔いしれたところで、映画は終わる。鑑賞後も余韻に浸れるため、しばらく気づかないのだが、ふと、ある重大なことを思い出す。この話だと、「絶対味覚」の能力、ほとんど関係なくないか?

実際、一度食べたものの味を再現するシーン自体が、冒頭の佐々木の人物説明のための1度しかない。メインのストーリーでは、本当に全くない。読んでいないので断言できないが、原作がそうなのだろう。にしてもこれ、すごくないか。この尋常じゃない特殊能力は、「血は繋がっている」(あ、言っちゃった)という説明のためだけに存在しているのだ。能力者を主人公にしておいて、一度も能力を使って解決することがないって。鉄の爪を一度も出さないローガンみたいなもんだぞ。

 

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