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【邦画】『あゝ、荒野』(前篇/後篇)--5時間を超える歪な作品

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監督:岸善幸/脚本:瀬古浩司山浦雅大/原作:寺山修司
配給:スターサンズ/公開:2017年10月7日,21日/上映時間:157分,147分
出演:菅田将暉、ヤン・イクチュン、木下あかり、モロ師岡、ユースケ・サンタマリア

 

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70点
歪な作品である。寺山修司の原作も読んでみたが、あとがきによると構成を決めずに思いつくままにつらつらと書いていたらしく、たしかに整理されていない。だが、原作の散らかり具合と、本作の歪さは、また別物だ。本作にとって寺山修司の原作小説は、いくつかの設定を拝借した程度、と捉えるべきだろう。

あゝ、荒野 (角川文庫)

あゝ、荒野 (角川文庫)

 

 

時は2020年。経済的徴兵制への抗議デモと、爆弾テロが日常として起こる街、新宿。少年院から出てきた新次と、父親からの暴力で吃音と赤面対人恐怖症となった建二が、偶然出会い、ともにボクシングジムに入る。運命的に出会った二人は、トレーニングを通して絆を深めていく。

必然的に、ラストは二人の試合で締めくくられることは、観始めてすぐにわかる。前後篇あわせて5時間を超える物語のほとんどは、二人の試合までのプロローグに過ぎない。しかも前篇に至っては、新次と建二の関係性は良好なままで、特に変化が無かったりする。時間配分が歪である。

この作品のもう一つの歪さは、二人以外の人物の存在にある。身も蓋もないことを言ってしまうが、二人以外、本当に要らないのだ。新宿が狭い町だといいたいのか、妙に「偶然の繋がり」が多いし(湊かなえの小説『少女』に匹敵する)。そして、ラストのボクシングシーンで判明するが、誰一人として処理されていない。元の設定だけなら超重要人物だらけだというのに。放ったらかし。

こういった歪さが、本作の価値となっている。歪さを体現するのに、たくさんの外野が必要であり、5時間超の尺が必要であり、東京五輪後の新宿という舞台が必要だったわけだ。そして計算高く用意されたいくつもの歪さによって、ラストのボクシングシーンがひたすらに盛り上がってくる。これ以上、何を望むのだというくらいに。

いろいろ言っているが、映画体験として年に数回あるかどうかの、貴重な高揚感を得たのは事実である。『ブレードランナー2049』ですら上映時間の長さには多少の辛さを感じたというのに、この5時間超(前篇と後篇は別の日に観たわけだけど)は一切の苦痛が無かったもの。スゴいことだと思う。

ところで、2020年のちょっと退廃した新宿(西側)を表現する建物は、もはや都庁舎ではなくモード学園ビルらしく、何度も象徴的にスクリーンに映っていた。うまく言えないが、これが妙に生々しく、ちょっと恐ろしかった。モード学園ビルかあ。そうかあ。「なんだ、あのデザイン」ってバカにしてたら足元をすくわれそうだ。注意しておこう。

 

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