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【邦画】『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』--ヒロイン役は水原希子ではなく、安藤サクラである

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監督&脚本:大根仁/原作:渋谷直角
配給:東宝/公開:2017年9月16日/上映時間:99分
出演:妻夫木聡、水原希子、新井浩文、安藤サクラ、リリー・フランキー、松尾スズキ

 

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69点
まず断言しなくてはいけない。映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(以下、『民生ボーイ』)の主人公は妻夫木聡演じる雑誌編集者・コーロキであり、ヒロインは誰が何と言おうと安藤サクラ演じるコラムニスト・美上ゆうである。断じて水原希子はヒロインではなく、彼女はコーロキにとって乗り越えるべき試練という位置づけだ。

それにしても、なぜこれまで誰も、安藤サクラにコメディ演技をやらせなかったのか。たしかに家系からくるイメージ(なんせ曾祖父は総理大臣だ)もあるし、何より顔は陰気臭くて声も低く、根っから暗い人である。純文学的なマジメ映画ばかりになってしまうのも仕方ない。しかし今回、躁鬱の切り替えが頻繁に起こる、漫画的に弾けたキャラクターが、ドハマりしていた。正直、『民生ボーイ』を観て、生まれて初めて安藤サクラをかわいいと思った。

さて、大根仁監督は、自分の理解の範疇のことしか映画にできない人である。『恋の渦』は未見で申し訳ないが、『モテキ』『バクマン。』『SCOOP!』と今回の『民生ボーイ』はすべて、メディア業界を舞台にしていることからもわかる。このことについて、大根監督自身が「一般的な会社の中のことを知らないから」とインタビューで答えているし。また、『民生ボーイ』ではホラーテイストも織り交ぜているのだが、ホラーの撮り方が解らないんだろうなあということがよく解ったので、できないことをやらないというスタンスは別にいい。

そして『モテキ』『バクマン。』『SCOOP!』『民生ボーイ』は共通して、主人公にとっては仕事と恋愛が密接にかかわっていて、線引きがされていない。大根監督にとって、人間とはそういうものなのだろう。『民生ボーイ』に関しては、仕事と恋愛だけでなく、タイトル通り奥田民生という趣味さえも一緒くたにごちゃまぜになったうえで、コーロキという人格が出来上がっている。

では『民生ボーイ』の物語を簡単に解析してみよう。なお、公開から日が経っているので、けっこうネタバレします。ライフスタイル雑誌編集者のコーロキは、水原希子演じるファッションプレスの天海あかりに一目惚れし、ちょっとしたトラブルを経たうえで、すぐに付き合うことになる。

タイトルで「出会う男すべて狂わせるガール」と明言している通り、もちろん観客は第三者的な視点であかりのヤバさを認識したうえで、2人のイチャイチャを鑑賞することになる。水族館だろうがタクシーの中だろうが、ところかまわずキスするくだり(また長いんだ、ここ)では、こっちまで口の中がベタベタになってきて、気持ち悪くなった。観ながらコーラを飲んでいたからかもしれないが。

コーロキは33歳(ちなみに原作は35歳)とそれなりの年齢で、とっさの判断ミスはしがちなものの基本的には仕事はできるのである。それなのにあかりに対しては、童貞の中学生かというような醜態をさらし続けている(また、妻夫木聡が顔面の筋肉を目一杯動かして、情けなさを表現している)。あかりは典型的なファム・ファタルであり、ここからの脱却がコーロキにとっての試練だ。

いつものように自宅マンションでSEXした翌日、コーロキとあかりは、京都旅行を計画する。だがそのためには、コーロキは土曜日の夜までに美上ゆうの原稿を手に入れないといけない。遅筆で有名な美上は、金曜の夜の段階で逃げた猫を捜しに駒沢公園に行ってしまい、原稿を書く様子はない。あかりとの約束を破りたくないコーロキは発狂するが、編集長の真っ当な助言もあり、一緒に公園で猫を追い掛け回す。

このユーモラスなシーン、客席でも笑いが起こっていた。コーロキからしたらあかりへの盲目的な愛が発端ではあるものの、コーロキと美上、初めての共同作業だ。顔を引っ掻かれながらも猫を捕まえるコーロキを見ている美上の顔が、ほんの少し変化する。

さらには、その後のシーンが重要だ。美上はそのあとすぐ家に戻り、コーロキに付き添ってもらいながら一日がかりで原稿を仕上げ、奥田民生と絡めた最高傑作のエッセイを仕上げる。「奥田民生ファン以外で、こんなに民生のことをわかる人なんていない」と感激するコーロキ。すぐさま編集部に戻り入稿の準備をする。この調子なら最終の新幹線に間に合うが、ここでトラブルが発生する。

エッセイに添えられたイラスト(これも美上の作)だが、奥田民生に関する重大なミスがあったのだ。描き直してもらっていたら、新幹線には間に合わない。「イラストの間違いに目を瞑れば、新幹線に間に合って、あかりに会うことができる」という状況なのである。恋愛と仕事をごっちゃにしてきたコーロキが、これらに順序をつけなくてはいけなくなったわけだ。さあ、コーロキはどちらを上位にもってきたのか。

コーロキは、少し悩んだものの、仕事を取った。美上に電話を入れて「今すぐ描き直してください」と言ったのだ。しかも「あんたもプロなんだから」と怒鳴るまでした。あかりとの恋愛を差し置いても、仕事のクオリティを優先したのだ。

なお、コーロキの自己中ゆえではあるが、これまで原稿の遅れを大目に見られていた美上が怒鳴られるのは、極めて真っ当である。たぶん、編集者に怒鳴られたの、初めてだったんじゃないかと思われる。コーロキと美上の距離は、ここでさらに縮まったのだろう。

あかりの誘惑よりも仕事のクオリティを優先し、そのことで本当の恋愛を手に入れたこの一件によって、あかりによる試練は乗り越えたと見るべきだ。常に目の前の男にとって最善の選択をするあかりが、この瞬間に「別れよう」と言って連絡を絶つのも、当然だ。物語はこの後も続くが、それはオマケみたいなもんだ。大根仁監督作では初めて、主人公が仕事と恋愛を分割した作品である。大根仁監督の新たな価値観が示されたといえよう。


(ちなみに、美上に関するエピソードは、原作と映画では大きく変更が行われている。ラストのコーロキとの関係性も、原作とは全く違う。原作では、美上は「雑誌業界にいる変わった人のひとり」という程度の存在だが、映画では物語の中で重要なウェイトを占めている。同時に、原作では成しえなかった「奥田民生になりたい」というコーロキの願望も、映画では美上の存在によってある程度は成功しているのである。)

 

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原作漫画

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