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【邦画】『散歩する侵略者』感想レビュー--抽象性の高い話を映画の力で強引に納得させている

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監督:黒沢清/脚本:田中幸子、黒沢清/原作:前川知大
配給:松竹=日活/公開:2017年9月9日/上映時間:129分
出演:長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、笹野高史、長谷川博己

 

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62点
地球を侵略しに来た宇宙人が、地球人から「家族」「所有」「仕事」といった概念を奪っていく。非常にぼんやりとした、抽象性の高い話である。元は戯曲であるが、純文学小説にしたら面白いかもしれない。半面、映画にするのは難しい。油断すると言葉遊びに陥ってしまい、リアリティの肉付けが困難だからだ。

散歩する侵略者 (角川文庫)

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とは言ってもここは黒沢清監督なので、リアリティの肉付けとは別の方法で、この抽象性の高い話を映画たらしめている。映像の力でハッタリを繰り返しているのだ。スクリーンに映し出される圧倒的なビジュアル力で、豪快に話を持っていく。これが映画だ。少なくとも黒沢清の映画だ。

冒頭の残虐シーンから、そうだ。一般家庭内のスプラッタ描写からトラックの横転までの一連によって、世界がどうしようもなくなっている様を映像のインパクトだけで示している。掴みでコレをやっているので、あとは少々のことが起きてもなんとなく納得してしまう。(なぜトラックが横転したのかは、結局よくわからないのだが)

あとは度々登場する「日常の中を侵食していく軍服」というイメージも同じこと。リアリティの追求ではなく、映像による「ここは日常ではない」というハッタリによって、概念を奪うという抽象性に強引に説得力を持たせている。極めつけはラスト近くの戦闘シーンね。物語上は絶対必要でもないあのシーンにメチャクチャ手間かけてるじゃん。前に首長竜が出てきたときくらいのインパクトだったよ。

もちろん、理屈で考えると変なことばかりではある。最大の謎は「どうせ人類を皆殺し(数名のサンプルを残してあとは殺すとハッキリ言っていた)するんだから、別に概念なんか集める必要なくね?」ってことなんだが。何かの資料採集だろうか。あと、あの宇宙人のやつら、多人数で一気に取り押さえれば簡単に確保できるんじゃないかとは思った。

ところで、「仕事」という概念を奪われたら、本当にあんな風になるだろうか。「経済」とかの概念が残っているだろうし、そんなに影響がないかもしれない。それ以前に、いきなり自分が「仕事」という概念を思い浮かべろと言われても、無理な気がする。いろいろ考えてみたけど、ちゃんと頭の中で思い起こせる概念なんて、持っていないかも。「家族」とか、個人によって概念がまったく別種だろうし。

結論として、抽象性の高い話を映画のビジュアル力をフル活用して納得させるという黒沢清の手腕は素晴らしいが、肝心な「概念を奪う」ということの意味がフワフワしていたのが惜しいなあと。奪われた側(地球人)じゃなくて奪った側(宇宙人)の変化を最初のほうから示していたら、また違ったのかもしれない。あと、東出昌大の目は怖かった。この人、絶対に殺人鬼の役が似合う。

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