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【邦画/アニメ】『夜明け告げるルーのうた』--昨今のアニメ映画が追求する「観たことのないモノ」

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監督:湯浅政明/脚本:吉田玲子、湯浅政明
アニメ制作:サイエンスSARU/配給:東宝映像事業部/公開:2017年5月19日/上映時間:113分
出演:谷花音、下田翔大、篠原信一、柄本明、斉藤壮馬、寿美菜子

 

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70点
あえて誤解を招く言い方をすれば、圧倒的なデジャヴを常に感じつつ、それでも観たことのないモノを今まさに目撃している、というのが鑑賞中の正直な思いであった。圧倒的なデジャヴというのは、タイトルと人魚のルーというキャラクターの造形がどうしてもジブリアニメを連想してしまうところがひとつ。また、地方の町の若者が奮闘するという基本ラインは、新海誠、細田守、神山健治、沖浦啓之といったポスト宮崎駿とされる人たちの作品と共通しており、このあたりもデジャヴの要因となっている。

2017年になって立て続けに2本も劇場用アニメを公開した湯浅政明監督。『夜は短し歩けよ乙女』は、全体に渡って「湯浅色」の濃い作品であり、他の誰でも同じものは創れないだろうというオリジナリティあふれるものであった。一方の本作『夜明け告げるルーのうた』は、前述したとおり、ジブリアニメの系譜を愚直なまでになぞっている。大衆受けを狙っているのかと邪推してしまうほど保守的に。

だが、ここぞというところで攻めているのである。一番は、なんかの祭りの最中にルーが飛び出して歌って踊りだしたとき、周囲の大人たちがつられて踊り出してしまうというシーン。人間のキャラクターは湯浅監督作にしてはデフォルメ控えめであったのだが、このシーンでは足の指が勝手に動き出すところから始まり、ゴムのようにオーバーな動きがつけられている。今まで抑えられていた湯浅監督の持ち味が、最初の上げポイントであるこのシーンで一気に爆発する。

いくらファンタジーとはいえ、「その場にいる全員が勝手に踊り出してしまう」という状況は不自然なものだ。この不自然な状況に対して説明は一切せず、アニメの動きだけで説得力を持たせている。アニメーションの力を信じた結果だ。そしてこれこそが「観たことのないモノ」である。

昨年あたりから顕著だが、アニメ映画は「どうやったら実写に近づくことができるか」という段階を通り越して、「アニメでしか表現できない、観たことのないモノ」を追求しているようである。映画の歴史はすでに100年を超えており、もはや全ての表現は出し尽くされたとされているが、アニメーションの力をもってすれば「観たことのないモノ」はまだまだ作り出せるのだ。宙を舞う戦車も、戦時中の広島の風景も、切り落とされては生えてくる人間の首も、実写映画で表現できる限界をアニメーションの力によって超えることで「観たことのないモノ」にまで到達させている。本作『夜明け告げるルーのうた』も、古典的な話の中に、物語上のポイントではアニメーションの力を惜しみなく注いでいて、「観たことのないモノ」の追求を行っている。

あと、なぜかあまり触れられていないのだが、湯浅監督の評価ポイントとして、役者ですらない人物を声優に起用するその扱い方が抜群に上手いという点があるのではないか。本作では篠原信一という飛び道具をあえて起用しているし、『夜は短し~』におけるロッチの2人も、あの特徴的な声をちゃんとキャラクターとマッチさせているのはさすがであった。

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