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【邦画】『ヒメアノ~ル』--サイコキラーになる"理由"なんていらない

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監督&脚本:吉田恵輔/原作:古谷実
配給:日活/公開:2016年5月28日/上映時間:99分
出演:森田剛、濱田岳、佐津川愛美、ムロツヨシ、大竹まこと

 

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58点
本来、映画に限らず物語というものは、登場人物たちの全ての言動に理由があるほうが評価される。映画を観ていて、なぜそんなことをしているのか理由がわからない登場人物が出てきたら、普通は失敗作とみなされる。

しかし、現実世界において、ちゃんと理由があったうえで行動していることなんて、ほんの一部に過ぎないのではないか。なぜその服を着るのか、なぜその道を通るのか、なぜ夕食にそれを食べるのか、実はたいして理由なんてなかったりする。いやそんなことはない、ちゃんと全てに理由があるのだと反論する人も出るだろうが、その理由が他人に正確に伝わっていることなんて滅多にない。我々は、理由のわからない行動を取る大量の人間に囲まれた中で生き残っていかなければならないのである。現実とは、そんな不条理空間でのサバイバルである。

映画『ヒメアノ~ル』に登場する森田(森田剛)は、躊躇なく人を殺すサイコキラーである。といっても、森田の中では人を殺すための理由(腹が減ったから、とか)がちゃんとある。それが一般常識とかけ離れているがために、周囲の人間からすると理由が判断できず、狂気に怯えることになる。数多の物語に登場するサイコキラーと同じであるが、現実という名の不条理空間を具現化した存在とも言える。

ただ、森田はカフェでバイトをしているユカ(佐津川愛美)に執拗につきまとうのだが、なぜユカなのかという理由は一切描かれない。一方ユカのほうは、実質的な主人公である岡田(濱田岳)に告白して付き合うようになるのだが、こちらもなぜ岡田なのか理由が全く不明だ。そう、この映画、どの登場人物に関しても、恋愛感情についてだけは理由が一切ない。「人を好きになるのに理由なんていらないんだよ」ってことか。そんな甘ったるい言葉とは不釣合な作品ではあるのだが。

ともかく、この映画、後半で絶対にやっちゃいけないことをやっちゃっている。というのも、けっこうな尺を使って何度も何度も、いじめられていたという森田の過去を強調しているのだ。森田がサイコキラーになった"理由"をひたすら説明してくる。それも過去のトラウマなんていう面白みのない"理由"。これまで現実世界の不条理とリンクした森田の存在が、急に安っぽい作り物になってしまっている。

理由のない狂気を素晴らしい演技力で体現した柳楽優弥(もちろん『ディストラクション・ベイビーズ』のほうね。『変態仮面』じゃなくて)を観たばかりなのもあって、過去のトラウマなんちゅうベタな"理由"をつけられた森田剛が、こちらも好演だっただけに不憫でならなかった、

あと、森田に早々に殺される婚約中のカップルを、駒木根隆介と山田真歩が演じているのだが、別の作品を嫌でも連想させるこのキャスティングは意図的なのか? 気をそらせてしまうだけなので、あまりうまくいっていないと思うが。

 

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 原作漫画

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