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【アニメ】『迷家 -マヨイガ-』--なぜこの話をアニメでやっているのだろうか

監督:水島努/シリーズ構成:岡田麿里
キャラクターデザイン:井出直美
制作会社:ディオメディア/放送局:TBS「アニメイズム」枠ほか


ずっと不思議なんである。『迷家 -マヨイガ-』という、WOWWOWやTBSなどで放送中のアニメ。ストーリーとしては、ネットで募られた30人の若者が、「地図にない村」で人生をやり直そうという導入から始まる。外部から隔離された閉鎖空間を舞台とした、人間模様が折り重なるミステリーもしくはホラー(いまだにどっちか判然としないのはともかくとして)というものは、別に珍しいものではない。不思議なのは、なぜこの話をアニメでやっているのか、という点である。

あらゆる表現方法において、そのフォーマットでしか行えない描写をするのは至極当然の選択である。今期アニメで言えば、『鋼鉄城のカバネリ』も『クロムクロ』も『ハイスクール・フリート』も、それぞれアニメでしかできない表現描写を行うことで、独特の臨場感を出している。これらの作品を実写で表現した場合、CGを駆使するなどすれば可能ではあろうが、できあがったものはアニメとは全く別物の印象を抱くだろう。まあ、当たり前だ。

ただ『迷家 -マヨイガ-』は、現在放送済の7話までの時点で、アニメでしかできない表現を未だ行っていない。予算面を考えても、テレビ東京・金曜夜のドラマ枠で全く同じものが放送されていても違和感がないくらいだ。全てのシーンを実写で再現できるのならば、なぜアニメでやっているのか。

 

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  • 「具現化されたトラウマ」は、アニメ独特の表現か

『迷家 -マヨイガ-』の中で唯一、アニメ独特の表現だろうと思えるのは、第6話から登場している「具現化されたトラウマ」の描写だろうか。主人公を例に取ると、子供時代に大切にしていたペンギンのぬいぐるみの一部が破け、そこからトラウマの対象である母親の目玉が覗いているという"化け物"に追いかけられる。"化け物"は巨大(4mくらい)で、母親の目玉は実写のモノクロ写真を用いている。作品の絵柄とは明らかに違う異質なものだ。絵柄の差異からくる違和感が、「具現化されたトラウマ」に襲われるキャラクターの心情と重ねている、という演出だろう。でも別にこれだってCGを使えば実写でできる。というより、周囲と差異のあるCG画像というものは、実写のほうでよく見る。実写映画の『暗殺教室』とか。で、こういう周囲との差異による表現はよほど計算高く扱わない限り、「単なる失敗」と認識される。『迷家 -マヨイガ-』に出てくる「具現化されたトラウマ」って、そんな「単なる失敗」みたいなのだ。少なくとも、「具現化されたトラウマ」がアニメ独特の表現とは言いづらい。

 

  • 大量のキャラクターを覚えやすくするため?

おそらく『迷家 -マヨイガ-』がアニメである一番のメリットは、バスの運転手を含めて31人もいる登場キャラクターの顔と性格を覚えやすい、ということだろう。髪型や顔のパーツの造形、喋り方や性格など、アニメにおけるキャラクターのフォーマットはすでに我々の頭に知識として入っており、基本的にはその組み合わせだからすんなり覚えられる。たぶん実写だったら31人を覚えるのは無理だ。これがドラマで女優がセリフの語尾にニャンとかつけていたら、気になって名前を覚えるどころではないだろう。ボクが思いつく、『迷家 -マヨイガ-』がアニメである理由は、これだけである。

(ところで、作中では3日くらい経っているはずなのに、昼も夜もみんなして服がずっと同じような気もする。これも覚えやすくするためか)

 

  • では、そもそもこの話は、31人も必要なのか

となると当然「31人も必要なのか」という疑問が次に浮かんでくる。『迷家 -マヨイガ-』がアニメなのは31人のキャラクターを覚えやすくするためならば、そんな大量にキャラクターを登場させることに物語上の大きな意味がなくてはいけない。これがないんだなあ、第7話までの時点では。いわゆるキャラ萌えを主軸としたアニメでは、様々な属性のキャラクターが大量に出てくること自体が目的だったりもするのだが、『迷家 -マヨイガ-』はそういうアニメではないはずだ。閉鎖空間が舞台だし、殺人鬼なのか人知を超えた何かなのかわからないが、とにかくそういったものによって次々とフェードアウトして人数が減っていくのがセオリーだと思うのだが、話数が半分を過ぎても、消えたのは31人中3人だけ。キャラクター同士の感情のぶつかり合いとかいざこざとかもちろんあるが、それだって31人も必要ないし。

 

  • 視聴者に対するメッセージが何もないので困惑している

それにしても、どういう形であれ「真犯人」に類する存在が31人の中に混じっていると思うのだが、それを推理で解くような流れに全くならない(ストーリーだけではなく、視聴者にそう促すこともしていない)のも気になる。そう、『迷家 -マヨイガ-』って、視聴者に向けて「こういう風に見てくださいね」というメッセージが何もない。そのため、こちらとしても視聴に対する心構えができず、ずっと困惑したままなのだ。犯人探しなのか、“化け物”との対決なのか、群像劇による人間ドラマなのか、過去のトラウマを乗り越える成長物語なのか、それとも単なるキャラ萌えなのか。『迷家 -マヨイガ-』はどういう目線で見ればいいのか、それだけ教えてほしいのだが。

 

 

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