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【邦画】『ジョギング渡り鳥』感想レビュー--物語を語らずして物語の重要性を説いた傑作なのかもしれない

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監督:鈴木卓爾/撮影監督:中瀬慧
配給:Migrant Birds Association、カプリコンフィルム/公開:2016年3月19日/上映時間:157分
出演:中川ゆかり、古屋利雄、永山由里恵、古川博巳、坂口真由美

 

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52点
映画美学校の生徒が実習授業によって制作した作品。卒業制作など、学生が作った作品が劇場で公開される機会も多くなったが、往々にして苦痛になるほどつまらない。まあ、商業面のことを考えていない作品なわけだから、仕方ないことではあるが。そうそう何度も『イエローキッド』は生まれないのだ。ちなみに、上映最終日のK's cinemaで観たのだが、上映前にキャスト・スタッフ総出による拷問のようなミニイベントがあった。まあ、それは省略します。

さて本作『ジョギング渡り鳥』の概要。神を見つけるための長い旅の途中で地球に立ち寄ったモコモコ星人。そこで宇宙船が鳥にぶつかって墜落してしまい、帰れなくなってしまう。仕方ないのでモコモコ星人たちは、カメラやガンマイクや鏡を手にして、地球人たちの様子を撮影し始める。なお、モコモコ星人は、地球人には見えていない。

なんだか理解しづらい話だが、これは本作の構造を作るための設定であろう。本作の肝は、画面上に映し出される「撮影される地球人」と「撮影するモコモコ星人」を同じ役者が演じている、という点だ。スクリーンで切り取られた狭い空間の中に、撮影される側と撮影する側が何度も入れ替わりつつひしめきあう。しかも、地球人の中にはスマホで映画を撮っている男がいてその映像も流れたり、さらには、本作を撮影している本当のスタッフまでスクリーンに映りこんでしまっている。このように撮影する側と撮影される側が入り乱れ、ぐちゃぐちゃな入れ子構造が延々と続くうちに、映画とは何か、という哲学的な雰囲気まで醸し出している。

映画美学校の講師であり本作の監督としてクレジットされている鈴木卓爾は、東日本大震災後だからこその作品であるようなことを言っている。あの未曾有の大惨事のあとしばらく、物語は機能しなくなった。もはや安直な物語では、津波に流される家や爆発する原子力発電所の映像には勝てやしないのだから。明確な目的も不明なまま、ただただ地球人を撮影し続けるモコモコ星人は、必死に新たな物語を生み出そうともがいている震災後の映画人を思わせる。

この映画は、観ていて苦痛なシーンがけっこう多い。ただ過去の「学生が作った作品」と違うのは、その苦痛が映画に関わる学生たちの苦痛と直結しているところだ。たどたどしい日常を送る地球人たちの物語が始まりそうで始まらない様子を撮影し続けるモコモコ星人の苦痛は、震災後の映画人たちが抱えている苦痛と非常に似ているのだろう。

そんな、物語を渇望する映画人の苦痛をダイレクトに観客に伝えた本作は、物語を語らずして物語の重要性を説いた傑作なのかもしれない。ということを踏まえたうえでぶっちゃけると、そんな苦痛を知らされたところで映画人ではないこちらとしては「知らねーよ」と思うだけなので、そのあたりがなかなかツラいところではある。

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