ヤガンEX

映画とか漫画とか似顔絵とか

【邦画】『ピンクとグレー』レビュー--結局、他人のことは何も分からない

f:id:yagan:20160131093830p:plain
監督:行定勲/脚本:蓬莱竜太、行定勲/原作:加藤シゲアキ
配給:アスミック・エース/公開:2016年1月9日/上映時間:119分
出演/中島裕翔、菅田将暉、夏帆、小林涼子、岸井ゆきの

 

スポンサードリンク
 

 


63点
このブログで映画を取り上げるとき、監督の過去作の傾向から書き始めることが多い。だが今回、いざ書こうとしたところ、行定勲監督の過去作で自分が鑑賞したものをひとつも思い出せなかった。全く観てないんじゃないかと思い、フィルモグラフィーを確認してみると、少しは観ていた。『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』『春の雪』『今度は愛妻家』『パレード』の5作のみ。食わず嫌いなところもあって避けていたのかもしれないが、それ以上に驚いたのは、この5作いずれも、監督名とセットで記憶に残っていないのだ。岩井俊二の助監督という経歴や世間的なイメージから、アーティスティックな自分の世界観を押し出したようなのを撮る人かと勝手に思っていたが、少なくともボクが観た5作はいずれも、一般受けを狙った商業映画である。『GO』『パレード』は、まだ作家よりかな。その2作にしたって、それほど強烈な作家性は感じられない。観ていない作品の中には、そういうのもあるのかもしれないけれど。

さて、『ピンクとグレー』は、ジャニーズ事務所所属の加藤シゲアキが書いた小説を大胆にアレンジして映画化された作品である。子供の頃から友人だった男2人が街でスカウトされて芸能事務所入りするも、片方がバカ売れしてもう片方はバーターもしくはエキストラでしか仕事が来ない。そのため別々の人生となるが、大スター俳優となった片方が突然自殺し、もう片方が第一発見者となる。なお「自殺シーン」は冒頭で流され、「十四年前」のテロップとともに物語が始まる構成となっている。

1時間を超えたあたりで再度登場する「自殺シーン」の直後、全てがひっくり返る大きな仕掛けがある。本作は、ひとつの役を複数の役者が演じており、ある人格を、内と外からの「ひとりの人物による多視点」で捉えようと、もがく様が描かれる。ただ、こういった仕掛けから導き出される結論は、「結局、他人のことは何も分からない」という古典的なものだ。唯一無二の親友だったはずなのに、自殺の理由がまったく自分とは関係なかったのだから。

自殺の真の理由であったと最後に明かされる、ある人物の存在感が非常に希薄なのは、もう片方の視点による物語であるからだとしても、不自然ではある。本作をミステリと捉えた場合は、アンフェアだと文句が来るだろう。結局、「なぜ自殺したか」の答えは明かされていないのだし。観客にとっては、もやもやしたまま、映画は終わってしまう。このもやもや感が、ボクが初めて感じた行定勲監督の作家性なのだが、それであっているだろうか

夏帆は、童顔でありながら加齢による疲れも伴っていて、高校生から30オーバーまで幅広い年代に扮することができるので、今後も映画界で重宝しそう。あとこれは本当に揚げ足取りなのだが、渋谷の青山通りを激走しているカットの次に明治通りの歩道橋を駆け上がっているのはちょっと気になった。瞬間移動? いや別にいいんだけど。

ピンクとグレー Blu-ray スペシャル・エディション

ピンクとグレー Blu-ray スペシャル・エディション

 

--

原作は、かなり内容が違うらしい。

ピンクとグレー (角川文庫)

ピンクとグレー (角川文庫)

 

 

スポンサードリンク