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【邦画/アニメ】『傷物語〈I 鉄血篇〉』--スクリーンで映画を観るということの一回性

映画 アニメ

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総監督:新房昭之/監督:尾石達也/原作:西尾維新/キャラクターデザイン:渡辺明夫
配給:東宝映像事業部/アニメ制作:シャフト/上映時間:64分

 

60点(※ 暫定)
「物語」シリーズのアニメは、最初の『化物語』は完全視聴しているものの、あとは飛び飛びにしか見ていない。原作はまったくもって未読。なので、この人気アニメシリーズについて深く語ることはできない。そういうこともあって、ボクが本作で面白いと感じたのは、TVと映画の違いという点である。

TVアニメでの放送は、録画であったりDVDやブルーレイによって何度も繰り返し視聴され、巻き戻しや一時停止やコマ送りなどが何度もなされることが前提で作られていたのかということが、今回の映画作品を観ることで逆説的に解る。たとえば、「物語」シリーズではおなじみの、文字を使った表現。本作でも文字の挿入は多用されているが、短いセンテンス(主に外国語だけど)なので言葉の意味も挿入された狙いもすぐに解る。TVアニメでよくやる、画面いっぱいに出ては一瞬で消える大量の文字列という手法は、今回の映画では行われていない。また、一回聞いたきりでは意味を理解するのに追いつかないような哲学をブンブン押し出した長広舌も、今回は無し。だって映画館では巻き戻しも一時停止もできないのだから。そういえばマニアックな小ネタも無かった。

代わりに本作が力を入れているのが、一度見たら忘れない強烈な画作りである。冒頭から主人公は、息を切らして螺旋階段を駆け上がり、大量のカラスに囲まれた中で火ダルマになって苦しみ暴れまわり、ビルの上から落下する。説明もなしに、いきなりこれである。インパクトは充分だ。

スクリーンで映画を観るということの一回性に重点を置いているがゆえであろう。ほかにも、切断された両腕両脚から吹き出る血が、女の子の揺れる胸とパンツが、映画の一回性によるインパクトによって次々に記憶に焼き付けられていく。正直ストーリーは起承転結の「起」しか進まないので物足りないが、それを補って有り余るほどの画が無数にある。

最後にもうひとつ。空間処理も、TVアニメと映画で大きく違うと感じた。新房昭之作品は、あえて空間を非現実的に大きくしていることが多い(建物の外観からありえないほど部屋の中が広いことは、新房作品ではいつものことである)が、今回の映画版では適度に抑えている。それでもまだ大きすぎるのだが。地下鉄の駅のシーンでの、あの適度に長すぎるエスカレーターと、適度に広すぎるプラットホーム。なんとなく自分も迷い込んでしまいそうな、リアルじゃないがゆえのリアリティがないだろうか。あと主人公の自宅が、TVアニメとまったく違うデザインで、コルビジェかミースかというようなモダニズムばりばりの近代建築だった。アレはなんだったのだろう。

 

※ 追記
森川嘉一郎さんのツイッターによると、主人公自宅のモデルは丹下健三の自邸らしい。あの廃墟は同じく丹下作品の山梨文化会館がモデル。なるほど。