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【邦画】『友だちのパパが好き』--マヤは社会性とは無縁に恭平を愛している

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監督、脚本:山内ケンジ/製作国:日本
配給:SPOTTED PRODUCTIONS/公開:2015年12月19日/上映時間:105分
出演/吹越満、岸井ゆきの、安藤輪子、石橋けい平岩紙

 

山内ケンジ監督の第1作『ミツコ感覚』は怪作だった。古舘寛治演じる男が突如現れることで日常が崩れていくのだが、古舘寛治が現れるたびに生じる、スクリーンが歪んでいるんじゃないかと錯覚するかのような気持ち悪さは凄まじかった。山内ケンジ監督は第2作である本作でも日常の中に異物のような存在を投げ入れることで、なんとなくで成り立っていた日常が崩れていく様を表現している。ただ、前作ほどの歪みは生じていないのは、古舘寛治が出演していなかったからではないか。古舘寛治の異物感、半端ないからねえ。

出演していない役者の話を延々としても仕方ないのでやめるが、本作『友だちのパパが好き』で異物となるのは、安藤輪子演じるマヤである。マヤは、友だちである妙子(岸井ゆきの)のパパ・恭平(吹越満)に恋愛感情を抱き、ただただ純粋にモーションをかけていく。恭平には愛人の生島(平岩紙)がいて、妻のミドリ(石橋けい)とは離婚がすでに決まっている。『ミツコ感覚』で前触れもなく現れた古舘寛治とは違い、マヤは元から妙子と友だちである。冒頭の会話の中で「妙子のパパ、かっこいい」と告白するが、もちろん妙子もミドリも真に受けていない。妙子は「くれてやるよ」とまで言ってしまう。そこから始まるマヤの恭平に対する純愛ゆえの行動がのちのち、周りが気づいたときにはすでに処理しきれない異物となって襲いかかってくる。

では、マヤの純愛の何が異物か。一言で言えば「社会性を飛び越えている」ということだろう。本作は、妙子の彼氏、ミドリに言い寄る同じ会社の社員なども登場し、各登場人物たちがいずれも性愛絡みで不安定な状態だ。だが、声を荒げて大喧嘩するなどの狂騒はなく、社会性からはみ出ないようにおとなしくしている。夫を寝取られた格好のミドリは、離婚というまさに社会性バリバリの国家制度に託すことで決着をつけようとする。マヤに別れ話を用いられた元担任の田所は、「お前はまだ若いから」などとマヤとの年齢差を引き合いに出してやり直そうとする。若いからなんなのかよくわからないが、年上の方が偉いんだというこれまた社会性による通念を盾に自らを正当化しようとしている。

マヤは、そんな社会性とは無縁に、恭平を愛している。恭平と生島が会っているところに顔を出して「恭平の娘だ」と平気で嘘をつき、別れさせる算段を整える。マヤの行動は社会性の基準からすれば明らかに異常で、だから妙子からも変態と言われる。しかし本来、人を愛するということは、社会性なんてものよりはるか上のことなんではないだろうか。生物の本能的な欲求であるはずの性愛を、人間があとから作り出した社会性の枠内でどうにか収めようとするほうが、ずっと異常ではないか。

ラストは、社会性に押しつぶされたがゆえに暴走するある人物と、マヤのさらに(社会性の概念からすれば)突拍子もない行動によって、各登場人物たちが何かしら気づく。そこから選んだ答えはそれぞれだが、全員がすっきりした顔になって前を向いたのは確かだ。

 

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