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【邦画/アニメ】『亜人 第1部 ‐衝動‐』--原作の欠点を修正したら、普通の話になっちゃった

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総監督:瀬下寛之/監督:安藤裕章/原作:桜井画門
製作国:日本/配給:東宝映像事業部/公開:2015年11月27日

 

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桜井画門の漫画『亜人』は、現在7巻まで出ている大ヒットコミック。何をしても生き返る不死身の「亜人」である高校生の少年・永井圭が、日本全体を相手に戦うSFサバイバルである。

亜人(1) (アフタヌーンコミックス)

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で、おそらくこの漫画を読んだ人全員が抱く感想だが、絵がヘタ。どのくらいヘタかというと、コマごとに人の顔が違うので、何度も出ているキャラクターを初登場だと勘違いしてしまうくらい。あと、女性キャラの目の下に描かれた放射状のものはシワなのかクマなのか。まつ毛ってことはないだろうが。

もちろん絵がヘタであることは、『進撃の巨人』と同様に欠点ではなく魅力と捉えることもできる。事実、作品内容に通じる不穏な空気感の構成に、あの不安定な作画が一役買っている。

『亜人』の話の骨格は「人間の中にほぼ不死身の存在が紛れている」という定番モノだ。作品のオリジナリティは、その先にある。例えば『寄生獣』のように哲学的に深くしたり、『白暮のクロニクル』のようにある程度共存した社会にしたうえでミステリー仕立てにしたり。では『亜人』のオリジナリティは何かというと「主人公・永井圭が、亜人かどうか以前に人間性に大きな問題がある」というところだろう。妹にクズとまで言われる彼がそれゆえ傍目からは予想外の行動をとることで、作品内にドラマを与えている。

さて、そんな漫画をアニメ化した映画『亜人 第1部 ‐衝動‐』は、どうだったか。ポリゴン・ピクチュアズによるフルCGは、さすが動きは滑らか。カットによって人の顔が違うということもない。目の下の線は、まつ毛になっていた。べらぼうに絵が巧くなっているせいで原作の持つ不穏さは小さくなっている。

第1章は、原作の3巻までを基本的には同じストーリーでアニメ化してるのだが、説明セリフが多すぎる。心の中も行動に至る理由もすべて口に出す。映画を観たあと改めて原作も読み返して、たしかに同じような言葉が出てくるところもあるけど、別にいちいち口に出してるわけじゃないだろう。また、各々のキャラクターがすべてセリフで自分のことを説明するものだから、このキャラはそういう性格なんだということが、観ている側にとっては考えることなく伝わってしまう。それによって、主人公を含めて主要キャラすべてが、この手の話にはありがちなタイプの理解しやすい性格に矮小化されてしまっている。

なので、妹のクズ発言もとってつけたようになっているし、クライマックスの研究所襲撃中に主人公が取る突飛な行動も唐突に感じる。あの行動は、主人公が「簡単に理解できない性格」だからこそ成り立つものなのに。まあ実は原作でもけっこう唐突なんだけど。連載漫画であるためにキャラ設定も後付けのところがあり、主人公の人間性の問題も巻が進むごとに修正されている。設定なりなんなりが少しづつ改変されていくのは、連載漫画の面白いところでもあるんだけど。でも既に先がわかっているうえでアニメにするんだったら、そのへんの配慮はできたんじゃないだろうか。

絵を巧くするのも、キャラクターの性格をわかりやすくするのも、見方によっては「原作の欠点を修正した」とも言える。ただそのせいで、ありがちな普通の話になっちゃっている。原作だとその先、超がつくほどの単純バカという中野攻というキャラクターが登場するのだが、うまく処理できるのだろうか。

 

 

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