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【小説】恩田陸『消滅』--恩田陸らしさは控えめだが、読み終わるとやっぱりいつもの恩田陸

202X年という近未来、空港の入国審査で止められた11人が、その中に紛れ込んでいるというテロリストを探す話。群像劇だが視点となるのは頭の回転が速い数名のみ。この視点となる人たちが総じてクールすぎるので、手に汗握る心理戦という要素はそれほど感じず、どちらかというといきなり知らない人たちで隔離されたことによって疲労がたまっていく様子が淡々と描写される。その代わりロボットやエスパーが普通に混在していたりする。

 

テロリストのコードネームが(本書のタイトルにもなっている)「消滅」であり、また大型台風が接近し通信機能も妨害されてるため空港の外の様子がまったく解らない閉鎖空間を舞台としているせいか、この手のSFでありがちなあるオチを予想してしまいがちだが、これたぶんミスリードさせるべくの仕掛けなんだろうな。事実は意外とあっけない。

 

恩田陸が得意とする独特の空気感(主にノスタルジーに帰結するアレ)の構築がいつもより手薄なせいか、宮部みゆき伊坂幸太郎などのいいところをちょっとずつすくいとったような印象を受ける。正直、読みながら何度か作者名を「消失」していた瞬間があった。

 

ラストになると唖然とするほど高速で風呂敷を畳むのもいつもの恩田陸であり、そこだけはどうしてもがっかりしてしまうのだが、改めて思い返してみると読書中はワクワクしたし全体を通してみれば結局は面白かったという感想に行き着くのも、やっぱりいつもの恩田陸である。

 

 

消滅 - VANISHING POINT