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上白石萌音レビュー本 まえがき

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本日(2020年5月6日)は、予定では「文学フリマ東京」が開催される日であった。その場で私は、過去の「邦画の値打ち」とともに、「上白石萌音は今日も見上げる。」というタイトルの新刊を出す予定であった。現在最も気になっている女優・上白石萌音が出演した映画6本についてのレビュー本である。だが、ご存じの通り、「文学フリマ東京」は中止され、新刊を頒布する目途は現時点で立っていない。

せっかく、ほぼ完成させた本なので、ここに彼女について総括した「まえがき」を掲載することにした。ちなみに、トップに載せたのは新刊の表紙案だが、あまり気に入っていないので、頒布の際には似顔絵イラストを含めて修正すると思う。

 

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上白石萌音とのファーストコンタクトは『ちはやふる 上の句』であった(『舞妓はレディ』は公開時に観ていなかった)。いわゆる「ヒロインの友人」ポジションであるのだが、普段この位置に配役されるような同世代の若手女優とは、明らかに違うものを感じたのを今でも覚えている。ぶっちゃけて言えば、広瀬すず主演の青春映画には似つかわしくない華の無さに引っかかったのだ。

すぐにモデル仕事の写真などの華やかなアイドル性のある姿を確認し、『ちはやふる』の華の無さは計算されたものだと知るのだが。その後の女優としての上白石萌音は、『ちはやふる』の大江奏のキャラクターに引っ張られていることが多い。引っ込み思案で、自信が無さげで、物語に積極的に関わらない配役ばかり。オファーする側の問題であろう。

今回、改めて上白石萌音の出演作品を観返した時、まず印象に残ったのは声である。歌手活動も並行しているからか、不純物の混じっていない透き通った声なのである。ミュージカル映画である『舞妓はレディ』のオーディションに受かった一番の理由は歌唱力で間違いない。また『ちはやふる』でも短歌を詠み上げるときの声には圧倒される。

前述のとおり、上白石萌音は引っ込み思案の役柄が多いため、そのたびに弱々しい掠れ声を要求されている。だがここで声が小さくならず張りだけは保たれているのが、歌手としての本領発揮であり、女優としての大きな武器なのだ。

声の話が長くなってしまったが、もうひとつ、上白石萌音の素材としての大きな武器に、背の低さがある。そこに丸顔、タレ目、目立つ前歯などの顔の特徴が加わり、愛玩的な小動物を想起させる。庶民には手が届かないトップアイドルのような神々しさとは真逆の、すぐそばにいると安らぎを感じる独特の存在感は、女優をするうえで大きな武器だ。『ちはやふる』『溺れるナイフ』のような「ヒロインの友人」ポジションだったり、『羊と鋼の森』のように同じく控えめな主人公にシンパシーを感じさせる存在だったりと、ある種の非現実性を纏うアイドル女優では納められない役柄を違和感なく体現することができる。逆に『L・DK』やドラマ『恋は続くよどこまでも』のように正統派ヒロインの立場となると、途端に生々しさが発生し、ありがちなロマコメをリアルに押し上げてくる。

だが、上白石萌音に要求される役柄が似たようなものばかりなのは、本人にとっては窮屈なのであろう。撮影順は解らないのだが主要な出演作の中で最も最近公開された『スタートアップ・ガールズ』は、他の作品とは全く別の上白石萌音を見せてくれる。髪を赤く染め派手なファッションでぴょんぴょんと跳びまわる上白石萌音は、とにかく演じていて楽しそうだ。鍛え抜かれた肺活量によってとめどない早口も難なくこなし、小動物的な存在感は自由奔放にちょこまかと動く姿とリンクして愛らしさを加速度的に押し上げている。この作品によって、オファーする側が勝手に上白石萌音の演技の幅を狭めていることがよく解った。

そんなわけで、これから上白石萌音が出演した映画作品6本について、それぞれ彼女がどのように作用しているのか考察してみた。女優・上白石萌音の魅力が少しでも伝わって頂ければ幸いである。

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