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【邦画】『三度目の殺人』感想レビュー--真実を示さないという構造を取っているのは、どういう効果を持つのか

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監督&脚本:是枝裕和
配給:東宝=ギャガ/公開:2017年9月9日/上映時間:125分
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、満島真之介、斉藤由貴、吉田鋼太郎

 

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64点
えーと、すでに公開から1週間経っているので、ある程度のネタバレ込みで以下の文章を書いています。一応ぼんやりした書き方にはしていますが、未見の方は注意してください。


ズルいのである。これは「真実が何なのか劇中ではっきりと示されない」というタイプの作品である。もちろんそういう映画も多いのだが、この作品の場合は「謎は謎のままで余韻を楽しむ」という話でもないのではないか。映画『三度目の殺人』において、真実を示さないという構造を取っているのは、どういう効果を持つのか。

主人公は弁護士で、ある殺人事件の被告人の弁護を担当することになる。被告人は既に殺人を行ったこと自体は自白しており、起訴もされている。弁護士は、死刑を回避するために、殺人は金目的の計画的なものではなく、衝動的にカッとなってやってしまったものだと主張することで、死刑を回避するという法廷戦略を立てる。

この弁護士は扱う事件の真実には興味がない。被告人の有利になりそうなストーリーを、真実であるかのように主張するだけだ。このような弁護士の価値観に、多くの観客は拒否反応を示すだろう。司法なるものに過剰な正義を期待しているからかもしれない。現実のところ、司法は真実を明らかにする場じゃないのは、日々のニュースを注意深く見ていれば解ることだが。

さて、被告人の主張はコロコロと変わる。弁護士は翻弄されながらも、主張に合わせて「裁判で勝てる」ストーリーを創り出しては、その説を補完できるような材料を探して回る、という日々が続く。そんな中、ある重要な関係者から衝撃的な告白を受ける。被告人の有利に働く貴重な告白で、もしも法廷で証言すれば死刑は間違いなく回避できるだろう。だが、法廷で公に証言することによって、その関係者自身に社会的制裁が起こり、精神的ダメージも大きいであろう代物である。

それでも関係者は、自らへの罰と懺悔という意味も含めて、法廷での証言を希望する。そのことを弁護士が被告人に伝えると、被告人はまたもや急に証言を変える。なんと今になって「自分は殺していない」と言い出したのだ。ついには弁護士までも、「真実は何なんですか」と叫んでしまうに至る。観客の気持を代弁するかのように。

被告人が急に「殺していない」と言い出した理由は、のちに弁護士が述べるとおり、だいたい予想がつく。関係者が法廷で証言するのを食い止めようとしたがゆえだ。ただこれは、関係者の証言が「真実」であるという前提でないと成り立たない。冒頭に述べた疑問の答えがここで判明する。最後まで真実が明らかにされないがゆえ、真実が明らかにされることで初めて発生する論評自体を無効化しているという効果が発生するのだ。

関係者の証言が「真実」だとしよう。そうすると、被告人の勝手な行いにより、関係者が望んだ「自らの罪に対する罰を受ける場」を強制的に奪ったことになるのだ。司法ではない者が、他者に対して勝手に裁きを下している。たとえ無罪だとしても、あまりに身勝手な行為だ。判決後、退廷しようとする被告人が傍聴席にいる関係者にだけわかるようなメッセージを発信しているが、罪を償う場を奪われた関係者からしたら酷い仕打ちではないか。

という、この美談じみたようでいて実は醜悪な話が、真実を明らかにしないというこの映画自体の構造のせいで、主張することができなくなっているのだ。つまり、この被告人は真実を喋らないことで、観客が映画に対して行う裁きですら、無効化している。劇中の登場人物が、スクリーンの外側まで侵食しているのだ。この構造こそが、映画『三度目の殺人』の本当に恐ろしいところである。

 

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今回は色々な理由があって劇場公開&鑑賞時から1週間以上経ってブログにUPしましたが、みんな観ているような話題作に関してはこっちのほうがいいかも。劇場公開後すぐにレビューをUPするブログはたくさんあるので、ここで同じことしなくてもいいし。1週間くらい寝かせると、各レビューなんかも目を通したうえで頭の中で整理したうえで文章が書けるし。何だったら一回文章を書いた後に、もう一度観に行ったうえで書き直したりしたっていいわけで。

他に誰もブログで扱っていないような小規模作品は、すぐに載せたほうがいいかもしれませんが。まあちょっと今、あんまりミニシアター系には行けてないんですが。来年から復活します。

というわけで、『奥田民生なんちゃら』のUPも来週になります。あと、今はDVDによる旧作鑑賞に重点を置いているので、劇場公開の新作映画レビューは週1~2回のペースになりそうです。旧作のレビューに関しては、他の方法で発表しようと考えているので、今のところブログに載せる予定はないです。

そんな感じで、これからもご贔屓にお願いしますです、はい。