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【邦画】『花に嵐』--映画への自意識がないからこそ、映画を解体できる

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監督:岩切一空
配給:SPOTTED PRODUCTIONS/公開:2017年7月29日/上映時間:76分
出演:岩切一空、里々花、小池ありさ、篠田竜、半田美樹、不破要

 

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63点
元々は映画学校の卒業制作で撮られていたが間に合わず、のちに完成させたという自主製作映画。PFFアワード2016準グランプリ、カナザワ映画祭2016の観客賞など、けっこうな評価を集めている。

映画のことなど何も知らずに映画研究会に入部し、カメラを2週間借りた内気な大学新入生の撮った映像、という体で進むモキュメンタリー。女先輩から「脂くん」という酷いあだ名をつけられた後、新入生歓迎会などの様子を撮影していると、常に無言で暗くうつむいているショートカットの女の子が映りこんでいることに気づく。

ここでデデーンと大きな音が挿入され、映像が繰り返されるのが、いかにも素人が編集したような絶妙な下手さで良い(なお、この突然の大音量BGMは、そのあと何度も多用される)。そのあと実際に女の子が主人公の目の前に現れ、唐突にキスしてくるところは、意志とは無関係に不条理な非日常空間に足を踏み入れてしまったという名シーンである。

女の子から「ある人の自宅2階の奥の部屋にあるものを取ってきてほしい、誰にも見つからずに」というメタルギアソリッドなお願い(しかも超無理ゲー)をされたり、強引にBMWを盗まされたりするなど、天性の魔女のような女の子に受け身のまま翻弄されるうちに、主人公は沼地にハマるかのように抜け出せなくなっていく。

実は後半、もう一つのカメラの映像が挟まれてくる。ここでちょっと主題がブレる。主人公には映画への自意識がさほどなく、なんとなくカメラを回しているので、そのため偶然的であったり他者の意思による画も多い。映画を解体するのには面白い手法だが、これはカメラ1台で済ますことで完成することではないだろうか。

野暮なことを言えば、BMWを盗んで無免許で運転している件はどうなったのかとか色々あるが、そんなのはどうでもいい。あのラストのグワングワンした“クランクアップ”シーンからは、なんか虚構と現実が混ざり合ったとんでもないモノを観させられているということは痛感した。そして映画館を出たあと、立ち眩みで倒れそうになった。そういう力がある作品ではあった。

 

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